イタリアのジャズロック・グループ「AGORÀ」。74 年結成。作品は ATLANTIC からの二枚。 78 年解散。 「AGORÀ」はギリシャ語で「広場」の意。2002 年再始動、2013 年新作発表。 イタリアらしい魅力にあふれるジャズロック。
Roberto Bacchiocchi | electric piano, vocals |
Renato Gasparini | guitar |
Ovidio Urbani | soprano sax, cymbals, vocals |
Paolo Colafrancesco | bass,vocals |
Mauro Mencaroni | drums, vocals |
76 年発表のアルバム「Live in Montreux」。
75 年 7 月 7 日スイス、モンタレー・ジャズ・フェスティバルからのライヴ録音。
内容は、ラフで歪んだ音色が意外なまでに暖かみあるファンタジーを描くジャズロック。
ホットなサウンドとクールなプレイを組み合わせるも、アメリカンなファンキーさは抑えて、清廉なロマンティシズムのある、欧州流のリリカルな世界を創出している。
「ヴァイオリンのない ARTI+MESTIERI」もしくは「朗らかな表情の後期 SOFT MACHINE」もしくは「ロックに洗練された NUCLEUS」といえば、その作風のニュアンスは伝わるかもしれない。
演奏は、サックスとギターのリードするメロディアスなメイン・パートを、キーボードのオブリガートや祈りのようなスキャット、コンパクトなソロでアクセントをつけてゆくスタイル。
ワイルドな音色でなめらかに歌うギター/サックスとふつふつと湧き立つようなエレクトリック・ピアノのコンビネーションがいい。
流れるようなユニゾンや速弾きソロなど、かなりの技巧派であることは間違いないが、あくまで流麗なハーモニーとアンサンブルを重視している。
そして、メランコリックに歌うプレイを丹念に積み重ねてゆき、いつの間にか胸の厚くなるクライマックスへと到達している。
その表情の変化の押しつけがましさのなさ、さりげなさが魅力だ。
特に、電気処理もあるようなソプラノ・サックスと独特のくすんだ翳のあるエレクトリック・ピアノが印象的であり、ファンタジックなイメージはこの二つの楽器のプレイによるところが大きいようだ。
ライヴにしてこれだけ自然な抑揚のある丁寧な描写ができるところも驚きだ。
それでいて、出るべきところではきっちり鋭く生き生きとしたプレイで前面に出てくる。
現代の水準からすると録音はラフ、しかし鮮度のあるパフォーマンスを余すところなく伝えているのだから問題はない。
ARTI+MESTIERI や PERIGEO と並ぶ、本格派のイタリアン・ジャズロックの秀作。
収録時間が短いこと、また、大作「Serra S. Querico」が LP の時間制約のために A、B 面に分断されていることが残念。
BTF からの CD ではどうなっているのでしょう。
そういえば、日本盤 LP もありました。
「Penetrazione」(5:20)ゆったりとしたテーマを朗々と歌う傑作。
「Serra S. Querico pt 1」(8:33)即興も交えたらしき融通無碍なる幻想大作。スキャット風のヴォーカルもあり。サイケとニューエイジの中間地点。
「Serra S. Querico pt 2」(6:40)リプライズを経て、一気にハイ・テンションな演奏と化す。
「Acqua Celeste」(6:00)
「Porto Di Ovidio」(5:24)
(ATLANTIC 50171)
Roberto Bacchiocchi | keyboards, vocals |
Ovidio Urbani | sax |
Renato Gasparini | guitar, vocals |
Lucio Cesari | bass, percussion |
Mauro Mencaroni | drums, vocals |
Nino Russo | sax, percussion |
77 年発表のアルバム「2」。
ベーシストのメンバー交代と二人目の管楽器奏者が加入。
前作のファンタジー感に地中海のエキゾチズムをほんのり取り入れた「真夏の夜の夢」的エレクトリック・ジャズの秀作である。
構成面の変化は、演奏をリードするロールにおいてギターの比重が減り、相対的にサックスとキーボードの比重が増えたこと、キーボードにシンセサイザーが取り入れられたことなどである。
ギターはその分アコースティックなサウンドを開拓しており、エキゾチズムの演出に力を注いでいる。
卓越した技巧と繊細な感性が生かされた作風であり、眩い日ざしの影で埋み火のように燃える情念を丹念に描き出している。
即興的な、気まぐれ風の展開に加えて派手な分かりやすさもないが、しなやかで透明感のある旋律と和声に酔ううちに奥深い神秘の世界が見えてくる。
しなやかさには、たおやかな風情と弾力に富んだグルーヴ感の二面性がある。
つまり、二つのサックスが優美で官能的な絡みを見せるかと思えば、きりきり舞いするような、息せき切って走るようなアンサンブルで弾みをつけている。
その変化の相を貫くのがふわりとしたファンタジーの趣である。
本作はフュージョンではなくプログレ、と自信を持っていえる理由はそこだ。
ジャズロックとしてジャジーな味わいを増しつつ、ファンタジックなドラマ性も高めているという点で注目すべき作品であり、そういう点で ARTI+MESTIERI のみならず同時期の P.F.M とよく似ている。
伸び伸びと官能的でありながら、清潔感もある演奏である。
全曲インストゥルメンタル。
個人的には屈指のジャズロック・アルバム。
シングルカットされた「Cavalcata Solare」は、初期 WEATHER REPORT 的な傑作。
「Punto Rosso」(5:24)しなやかさにオリエンタルな響きがこだまする。
SOFT MACHINE 風のミニマリズムから解き放たれたときのカタルシス。伸びやかに飛翔するギター、サックス。
「Piramide Di Domani」(6:01)アコースティック・ギターやパーカッションらによる地中海風味とミニマルな抽象性がみごとにブレンドした佳作。
「Tall El Zaatar」(8:25)明朗かつ透明感あるサウンドと躍動するアンサンブルが手を組んだ ARTI+MESTIERI 的な傑作。少年のような無邪気さと溌剌さ。
「La Bottega Di Duilio」(5:52)急激なリズム/テンポの変化をメローな響きで包み、テクニカルでスリリングながらも、きらめくように自由な感性の「遊び」と懐の深さを印象付ける作品。
「Simbiosi (Vasi Comunicanti) 」(5:28)RTF 風のエレクトリック・ピアノとソプラノ・サックスの官能的な交歓。
黄昏時のあてどない夢想。
リズム不在のため、ニューエイジ・ミュージック風味もあり。
「Cavalcata Solare」(8:40)ベースはダブルベースだろうか。初期 WEATHER REPORT、後期 SOFT MACHINE 的な幻想性のある傑作。序破急の妙。エレクトリック・ギターも活躍。名曲。
(ATLANTIC 50324)