イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「PERIGEO」。 71 年結成。 作品は七枚。 78 年解散。その後も別名義などで散発的に活動。 サイケデリックなセンスと技巧を発揮したスペイシーなクロスオーヴァー/ジャズロック。 WEATHER REPORT や MAHAVISHNU ORCHESTRA とも活動した。SOFT MACHINE、NUCLEUS のファンはぜひ。
Giovanni Tommaso | acoustic & electric bass, vocals |
Caludio Fasoli | alto & soprano saxes |
Franco D'Andrea | acoustic & electric piano |
Bruno Biriaco | drums, percussion |
Tony Sidney | guitar |
72 年発表のアルバム「Azimut」。
内容は、サックス、ピアノ、ハードロック・ギターをフィーチュアしたサイケデリックなジャズロック。
NUCLEUS の1st、2nd、SOFT MACHINE の 3rd、初期 RETURN TO FOREVER、MAHAVISHNU ORCHESTRA らの系譜にある、「リフと即興によるエレクトリック・ジャズ、ややロック寄り」な作風である。
初期の PASSPORT にも通じるところがある。
特徴は、フリー・ジャズの影響とサイケデリックな音響センスがともに突出する荒めのサウンド、そしてアヴァンギャルドな表現に垢抜けなさがあるところだろう。
ギターが完全にロックなプレイ(クリス・スペディングやレイ・ラッセルどころではなく、型落ちの DEEP PURPLE のようなプレイで迫る)を放つ一方、アコースティック・ピアノやサックスはモダン・ジャズやフリー・ジャズのプレイである。
エレクトリック・ピアノがリードする即興演奏のバックでギターがへヴィなリフを刻む、ジャジーなピアノのコードを聴きながらギターがペンタトニックのハードロック・ソロを決める、再びギターがリフに移るとショーターばりのソプラノ・サックスが華やかなアドリヴを放つ。
つまり、ハードロックとモダン・ジャズを合流させたような感じであり、そのぶつかり合いと融合具合に本作品の魅力がある。
モロに初期 RTF 化することもあり、そういうところでは、アコースティック・ピアノやダブルベースのボウイングなどが、幻想的な印象派風の叙情美を醸し出している。
伸びやかなソプラノ・サックスはグルーヴィな美感の提供を一手に引き受けている。
KING CRIMSON の「Islands」を思い出すことも可能である。
英米クロスオーヴァー/ジャズロックからの影響をサイケデリックなサウンドで受け止めた個性的なジャズロックであり、叙情性と荒々しさのふれ幅が個性になっている。
一部でヴォーカルも入る。
タイトル曲はメロディアスで美しく、ドラマもある傑作。
最終曲は、全パートのソロ回しと即興、スクラッチ・ノイズなどによる大作。
プロデュースは、ジャンニ・グランディス。
(PSL 10555 / RCA 74321676162)
Giovanni Tommaso | acoustic & electric bass, vocals |
Caludio Fasoli | alto & soprano saxes |
Franco D'Andrea | acoustic & electric piano |
Bruno Biriaco | drums, percussion |
Tony Sidney | guitar |
73 年発表のアルバム「Abbiamo Tutti Un Blues Da Piangere」。
内容は、再びエレクトリックなサウンド/エフェクトを活かしたスペイシーなジャズロック。
スキャットも活かした神秘的な作風であり、前作よりはフリージャズ志向やハードロック調が抑えられて、AREA や MAHAVISHNU ORCHESTRA のような純正ジャズロック(というのも際どいポジションだが)となっている。
(フリージャズ志向が抑えられたというのは、あまり正しくないのかもしれない。音楽的な枠組みから飛び出そうとする勢いはフリージャズと同じである。
しかし、暴発ではなく、自分が美しいと思ったものに向かってストレートにアプローチしていると思う。たとえば、実験的な面もある 2 曲目など)
垢抜けなさを感じるところはなく、曲想と均整が取れた演奏になっている。
1 曲目、浮遊感あふれる序章を経た安定感あるテーマまでの展開や、3 曲目のトリッキーでアグレッシヴながらも余裕のあるアンサンブルで、それを実感できる。
メローに歌うところばかりか、ハードなアタックで迫る演奏でも、安易なハードロック調ではない、 ほのかにエキゾティックでしなやかな腰の強さがある。
ギターと管楽器のユニゾンがなんともあでやかでいい。
前作の印象を RETURN TO FOREVER に喩えたが、正確には最初期 RTF にロック・ギターが入った感じである。
電化マイルスよりはファンクネスがなく、もう少しメローな叙情性があり、こちらのギタリストにはジャズっぽさが感じられない。(ジョン・マクラフリンは、如何にロックしようともジャズ・ギタリストである)
そして、その叙情性には、ARTI E MESTIERI と共通するみずみずしい南欧浪漫がある。
クロスオーヴァー/ジャズロックの代名詞でもあるローズ・ピアノのファンタジックなサウンドは、本作でも十二分に活かされている。
アコースティック・ギターによるエキゾティックな演出も非常に効いている。
アルバム全体としては、最終曲(フリーなアドリヴ全開のジャズ大作)を除いて、いわゆるジャズロックといったときのテクニカルな痛快さよりも、メロディアスで叙情的な面がアピールできていると思う。
バンド・アンサンブルとソロもバランスよく構成されている。
一押しは、3 曲目「Rituale」。
「In A Silent Way」に到達するために切磋琢磨する、70 年代 ジャズロックの秀作の一つ。
いいアルバムです。
プロデュースは、ジャンニ・グランディス。
(DPSL 10609 / RCA 74321676172)
Giovanni Tommaso | synthesizer, acoustic & electric bass, percussion, vocals |
Caludio Fasoli | alto & soprano saxes, percussion |
Franco D'Andrea | acoustic & electric piano |
Bruno Biriaco | drums, percussion |
Tony Sidney | electric & acoustic guitar |
Mandrake | percussion, conga, drums |
74 年発表のアルバム「Genealogia」。
内容は、明暗硬軟緩急ヴァラエティに富んだ「ジャズロック」。
技巧にあふれた鋭角的なアンサンブル、印象派を思わせるクラシカルな美、素朴で普遍的な哀愁、逞しきラテン、ミニマリズム、お得意のサイケデリックな神秘性などにそれぞれ重きを置いた作品が並び、多彩としかいいようのない作品になっている。
アルバムを通すとバラバラな印象を与える可能性もあるが、一曲ごとの曲想の描写力は高く、メリハリの彫がドエラク深い。
サウンド面では、シンセサイザーの電子音が多用されているのが特徴だ。
フュージョンとの違いは、浮き草めいた都会的なアンニュイというヤツなど歯牙にもかけていないところだ。
ローズ・ピアノの響きは、カクテル・グラスや長い髪ではなく、銀河系の果てにさんざめく星々のささやきである。(われながら何をいっているのか分からない)
前作に続き、いいアルバムだと思う。
オープナーであるタイトル・チューンでは、コズミックなシンセサイザーの電子音が渦巻く序章に驚かされるも、以降はその新兵器を随所に活かしつつも、サウンドとしてはむしろアコースティックで素朴なフォーク・タッチを活かしたメロディアスなジャズロックを演奏している。
ソプラノ・サックスが木管楽器のようなペーソスをかもし出している。
2 曲目は、典型的な快速テクニカル・ジャズロック・チューン。ISOTOPE ばりのハードな、切迫したアンサンブルをつややかなサックスが潤す。
4 曲目は、3 拍子と 4 拍子が交錯するヒプノティックなアンサンブルが SANTANA ばりの官能的なラテン・ロックを呼び覚ますスピリチュアルな佳品。新加入のパーカッション奏者が活躍する。
5 曲目は、2 曲目に続いてハード・アタッキンな一直線ジャズロック。ISOTOPE + ソプラノ・サックスである。
爆発的なリズム・セクション、そしてフロントのギターとサックスのせめぎ合いが壮絶。
6 曲目は、ややけだるげなシティ・ポップス調と見せかけて変拍子パターンの怪作。メローな曲におけるサックスとギターのユニゾン・テーマのデリカシーのなさが SOFT MACHINE と同じ。「似合わねえなあ」と思っているのだろう。
7 曲目は、キーボードを活かした「Moonmadness」CAMEL のようにスペイシーな作品。ベースはダブル・ベースのようだ。と思うと、WEATHER REPORT の一作目にも聴こえてくる。
8 曲目は、モダン・ジャズ的なビート、リフとサイケデリックなギター・プレイ、音響処理をブレンドした野心作。人工的なテーマは前半はピアノとサックスで奏で、後半はギターとサックスで奏でる。カッコいいです。
最終曲は、スキャットを交えた透明で神秘的な ECM 風を前後に、ハイ・テンションのジャズロックを中盤にはさむ。こういう作品を聴くと IL VOLO にももう少しがんばってもらいたかったと思う。
本作品から米国盤もあり。
(TPL1-1080 / RCA 74321676182)
Giovanni Tommaso | synthesizer, acoustic & electric bass, vocals |
Caludio Fasoli | alto & soprano &tenor saxes |
Franco D'Andrea | acoustic & electric piano, synthesizer |
Bruno Biriaco | drums, percussion, piano |
Tony Sidney | electric & acoustic guitar |
Toni Esposito | percussion |
75 年発表のアルバム「La Valle Dei Templi」。
パーカッショニストとして才人トニー・エスポジトが加入。
ソプラノ・サックスの上ずりながらも透明感ある調べが多彩なパーカッションの音をまといながら疾駆する、それはあたかもキラキラと星屑をまき散らしながら夜空を駆け抜ける流れ星のようだ。
終わりまで通すと、これまでよりもテーマが明快になり、そのおかげで非常に聴きやすく受けとめやすくなった作品が増えたように感じた。
切れのいいリズム・セクションとともにエレピ、ギター、サックスがテクニカルなプレイの応酬を繰り広げる展開もあるが、そこですら、神秘性やスリルよりも TV 番組のテーマ曲のようなキャッチーさ、アクセスのしやすさがある。
変拍子のテーマでさえもがグルーヴィなのだ。
時は 75 年、ソウル、ブラコン、ファンクからの影響がないわけがない。
ストレートなグルーヴの追求も当然「あり」である。
もっとも、ファンキーになり過ぎない、なり切れない何かがあるようで、どこまでも上品なロマンチシズム、ファンタジーの響きが貫かれている。(5 曲目のピアノとシンセサイザーによる小品など)
この辺りが「許せる」理由なのだ。
シンセサイザーによるエフェクト風の音もなかなか大人気なく積極的に取り込んでいる。
サイケデリックな神秘性からは時代とともに後退(それでも 6 曲目のエフェクトにセンスは感じる)したが、テクニカルでパンチも効いた、夢見るようなジャズロックとしては一級品である。
英語表記のヴァージョンもあるようだ。
(TPL1-1175 / ND 71936)