フランスのジャズ・ヴァイオリニスト 「Didier Lockwood」。 MAGMA から出発して独立、自己のグループ含め様々な録音に参加し、現在はジャズ・ヴァイオリニストとしての名高い。 ジャン・リュック・ポンティに続くフランス・ジャズ界のヴィルトゥオーゾ。 プログレは若気の至りとか。2018 年急逝。
Didier Lockwood | electric violin |
Francis Lockwood | keyboards |
Bunny Brunel | bass |
Patrick Gauthier | moog solo on 2,3,6,8 |
Kirt Rust | drums |
guest: | |
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Luc Plouton | moog solo on 1,4,5,7 |
76 年発表の「Jazz-Rock」。
ロックウッド兄弟によるユニット「Lockwood」名義の作品。
デディエ・ロックウッドが、「ライヴ」のツアーを終え MAGMA を離れた時期の作品である。
内容は、ヴァイオリン、ムーグ、ベースをフィーチュアした RETURN TO FOREVER 風のハイ・テンションなジャズロック。
ギターに代わるリード楽器は、もちろんロックウッドのエレクトリック・ヴァイオリンである。
重量感と切れ味を兼ね備えたリズム・セクションや、チック・コリア直伝のような壮絶なるムーグのプレイなど、奔放にしてテクニカルな演奏のなかで、エレクトリック・ヴァイオリンのプレイには、若々しさとともに優雅な歌心がある。
メロディアスなプレイを独り占めしているせいもあるのだろうが、この歌い上げるようなヴァイオリンの存在が、フュージョンではない、ぐっとプログレらしい叙情性を高めているようだ。
ひらたくいえば ARTI E MESTIERI を思い出してしまうということだ。
また、カート・ラスト、パトリック・ゴーシェといった MAGMA/WEIDORJE ラインのプレイヤーに加えて、かのバーニー・ブルネルも参加(この後、チック・コリアに抜擢される)している。
ブルネルは、テクニシャンぶりを遺憾なく発揮して目立ち捲くるが、音がいかにも MAGMA 風なところがおもしろい。
5 曲目「Volker」が出色。
81 年の「Lookwood!」は本作と同内容。
また、MUSEA からの再発 CD ではタイトルを「Volkor」に改めており、81 年のフランシス・ロックウッドの作品「Debbi」が含まれる。
ジャケットはこの CD のもの。
「To-morrow」(2:06)ブルネル作。エレクトリック・ヴァイオリンとシンセサイザーのかけあいがカッコいい。
「Astral Trip」(5:30)ブルネル作。ベースが提供する安定感に支えられて、ドラムスもヴァイオリンも暴れまわる。
エレクトリック・ピアノはメローにして悩ましく、幻想的でもある出色のプレイ。
テクニカルかつロマンティックな、RTF 直系の作風である。ブルネルのファズ・ベース・ソロもおもしろい。
「Elbow」(6:57)F.ロックウッド作。メロディアスなヴァイオリンが ART+MESTIERI を思わせる。ゴーシェの目まぐるしいムーグもカッコいい。
キャッチーな作品だ。
「What's The Matter」(2:15)ゴーシェ作。
「Volkor」(6:09)F.ロックウッド作。いわゆるジャズロックらしい挑戦的な姿勢と疾走感にあふれる名品。
スピーディなシンセサイザー・ソロはフランシス・ロックウッド。
優雅に歌うヴァイオリンと鋭いリズム・セクションの対比も鮮やか。
「Yellow Faces」(3:36)ブルネル作。
「Green」(3:50)ブルネル作。
跳ねるような曲調は RETURN TO FOREVER そのもの。
ベースは MAGMA。
ヴァイオリンとシンセサイザーの優美なユニゾンがソプラノ・サックスを思わせる。
「Naita」(4:22)D & F. ロックウッド作。冒頭、チック・コリア風のエレクトリック・ピアノがいい感じだ。ヴァイオリンとピアノが密やかな交歓をする叙情的な作品。
(JADISC 9002 / AM 6162 / MUSEA FGBG 4197.AR)
Didier Lockwood | electric violin |
Francis Lockwood | keyboards |
Sylvain Marc | bass |
Jean My-Truong | drums |
Luc Plouton | keyboards |
77 年録音、80 年発表の「Surya」。
ZAO 脱退後、同じく ZAO のドラマーであったジャン・リュック・トルーオンらと結成したグループ「SURYA」による作品。
内容は、最高の突き抜け感とテクニカルなスリルにあふれるジャズロック。
シャープなリズム・セクションに支えられてエレクトリック・ヴァイオリンとキーボードが超絶ユニゾンを繰り広げてハーモニーを成し、どこまでも飛翔してゆく。
痛快そのものな演奏だ。
ヴァイオリンは、若さと情熱ではちきれんばかりにメロディアスなフレーズを流れるような筆致で朗々と歌う。
そして、キーボードは、全体のアンビエンスを支え、挑戦的なソロでヴァイオリンと真っ向戦い抜く。
スペイシーなキーボード・オーケストレーションもすばらしいが、一番の魅力ということであれば、やはり瑞々しいヴァイオリンのプレイになるだろう。
ヴァイオリンなど上ものを支え、変拍子や独特のアクセントのあるトリッキーなリズムを堅実かつアグレッシヴにドライヴするリズム・セクションもすばらしい。
このリズム・セクションとヴァイオリンが生む緊迫感とメロディアスなプレイによる安堵/開放感が、せめぎあうように現れて否応なくドラマを構成してゆく。
オープニング曲は、溌剌とエネルギッシュなかけあいとソロを繰り広げながらもクラシカルな気品ある逸品。
一転して 2 曲目は、幻想的なトーンが貫くスペイシーなバラード。
メローなテーマ演奏が美しくはあるものの、ややステレオ・タイプ化した面もある。
変拍子と小刻みなテーマが痛快なユニゾンではじける 3 曲目は、ジャジーなピアノが新鮮。
4 曲目は、エレクトリック・キーボードを活かした耽美で神秘的な作品。
WEATHER REPORT を思わせる音だ。
たんたんとしたバッキングに対し、ヴァイオリン・ソロは壮絶。
5 曲目は、シンセサイザーとヴァイオリンのハーモニーによるなめらかなテーマが、みるみるほとばしるようにスピーディなユニゾンへと展開する華麗なる作品。
ピッチ・ベンドを駆使するシンセサイザーと、レガートなヴァイオリンのフレージングは、似ているようで微妙に表情が異なる。
6 曲目は、ティンパニが轟く重苦しいイントロダクションから、一転はじけるような演奏へと飛び込むブラック・ソウル調の異色作。
ヴォーカル入り。
ヴァイオリンがギターのようなソロを見せる。
変拍子のリフが凝っているが演奏はリラックスしたもの。
7 曲目は 6 曲目のリミックス版。
細身でせわしないトルーオンのドラミングが、メロディアスな作品で AOR 調に流れそうな上ものに歯止めをかけているようにも思う。
全体には、やはりアップ・テンポのテクニカルな作品の方に聴き応えがある。
ベーシストは当初バーニー・ブルネルが努めていたが、チック・コリアに引き抜かれてしまい、録音には参加できなかったそうだ。
ジャケット写真はアメリカ盤 LP および再発 CD のもの。
「Agartha」(7:09)
「Aspiring Answer」(5:57)
「Automatic Man」(6:57)
「Aura」(6:34)
「Patty」(7:06)
「Stakau」(5:36)オリジナル LP では、「Space Travel」(1:00)「Stakau」(2:22)「Do Anything You Want」(2:08)の三部に分けて表示されていた。
「Do Anything You Want」(5:39)前曲のリミックス版。
(IC 1092 / ADDA 581015)
Didier Lockwood | violin, bass-violin on 6 |
Tony Williams | drums |
Niels Pedersen | bass |
Gordon Beck | piano, electric piano on 5 |
guest: | |
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John Etheridge | guitar on 5, 8, 9 |
Jean-Michel Kajdan | guitar on 5 |
Francis Lockwood | piano on 6 |
79 年発表の「New World」。
トニー・ウィリアムスを含むヴァイオリン・クァルテットによるジャズ作品。
自作曲、兄のフランシス・ロックウッドの曲、スタンダードなどヴァリエーションに富んだ 9 曲を演奏している。
ウィリアムス以外にも、ブリティッシュ・ジャズ・シーンのベテラン、ゴードン・ベック、ステファン・グラッペリとも共演して「現代のジャンゴ・ラインハルト」のイメージを高めたジョン・エサリッジなど、豪華なゲストを迎えている。
内容は、きらめくように明るい音色をもつヴァイオリンの特性を活かした、端正なジャズ・アンサンブル。
沈着なアンサンブルが飛び立つように熱気を帯びてゆくさまが感動的だ。
「Vieux Pape」(5:21)カルテットによるオーソドックスなジャズ。
ヴァイオリン、ピアノ、ベースの順でソロをとる。
太く鋭くリズムを刻むドラムスを推進力にスピードたっぷりに走る、迫力満点のアンサンブル。
ドラムスの重量感とピアノ、ヴァイオリン・ソロの軽やかさのバランスがとてもうまく曲を作っている。
ロックウッドの作品。
「Autumn Leaves(枯葉)」(5:27)
ヴァイオリンのテーマは情感を抑えやや素っ気無いが、その後の変奏では重音を巧みに使って俄然華麗なソロを聴かせる。
テーマは、色気こそ足りないがクールな表情を湛えている。
スタンダード。
「La Manufacture De Sucre Engloute」(3:54)ベックとロックウッドのデュオ。
ピアノが綾なす美しい幻想の中、ヴァイオリンが静かにテーマを歌う。
ひたすらリリカルな演奏だが、音程を幅広く使う演奏には雄大な広がりも感じられる。
演奏の最後にピアノのピチカートが聴こえる。
フランシス・ロックウッドの作品。
「New World」(5:08)
ダイナミックなリズムに乗ってヴァイオリンが暴れまわる作品。
テーマにおいてはヴァイオリンは豊かに歌い、これぞウィリアムズといわんばかりの豪快なドラムスと相互作用しつつ盛り上がり、エネルギッシュな頂点へと昇りつめてゆく。
後半のドラムスとヴァイオリンのインタープレイこそ、正に火花散るという表現が相応しい。
鮮烈。
フランシス・ロックウッドの作品。
「The Last Blade Of Grass」(4:28)
元 SOFT MACHINE のジョン・エサリッジのエレクトリック・ギターをフィーチュアした作品。
テンポはミドルだが、雰囲気は完全にジャズロック。
爽やかな新風を吹き込む作品だ。
続くロックウッドのソロも、心なしかエサリッジのプレイに影響されているようだ。
ベックのピアノがエレピであるのも見逃せない。
J-M. カダンの作品。
セカンド・ギターはカダン。
「My Memories Of You」(5:42)弦楽器がざわめくような低音で二声の旋律を響かせるオープニング。
これは、クレジットによれば「bass-violin」なる楽器である。
印象派風(キース・ジャレット風 ?)のピアノとともに透明感のあるアンサンブルを奏で、ベースもフィーチュアする。
フランス風なのだろうか、独特の哀感が漂う美しい曲だ。
フランシス・ロックウッドの作品。
ピアノは F.ロックウッド。
「Giant Steps」(2:12)ドラムス、ヴァイオリンともに全開のエネルギッシュな作品。
凄い勢いで鮮やかにかっ飛んで、あっという間に終わる。
カルテットの演奏。
ジョン・コルトレーンの作品。
「Pentup House」(2:34)アコースティック・ギターとヴァイオリンの流れるようにスピーディなユニゾンから始まるデュオ。
小気味よいギターのコード・ストロークを伴奏に、なめらかなタッチで歌うヴァイオリンの鮮やかなこと。
オブリガートするギターもすばらしいプレイを見せる。
白熱したプレイにも関わらず、メロディはあくまでキュート。
アコースティック・ギターはエサリッジ。
ソニー・ロリンズの作品。
「Zbiggy」(6:55)クラシック調のアルペジオも飛び出すヴァイオリンの即興風ソロから始まる。
重厚と軽快をゆきかう巧みな演奏だ。
リズムとともに、ヴァイオリンはシャープなリフレインを繰り出す。
2 つのヴァイオリンが多重録音されているようだ。
重いフィルがウィリアムスらしい。
再びソロで自由にはばたくヴァイオリン。
続くギターとのアンサンブルでは、ベンディングとヴァイオリンの音を重ねる面白い効果を出している。
重量感あるドラムスのソロをはさみ、再びヴァイオリンのリフレインが走る。
しなやかなギターも加わりエネルギッシュな演奏が続く。
ディディエ・ロックウッドも尊敬するポーランド屈指のヴァイオリニスト、ズビグニエフ・ザイフェルトに捧げられている。
ロックウッドの作品。
オープニングのヴァイオリン独奏は、クラシックの素養を感じさせる端正な技巧と自由なイマジネーションに満ちたすばらしい演奏。
ヴァイオリンのふくよかな音色を使い、さまざまなアンサンブルのヴァリエーションを楽しませる名品。
初のリーダー作らしく、多彩な曲をカバーして音楽の幅を印象づける。
アグレッシヴなソロ・パートでも決して突出せずに、自らをアンサンブルにとけこませて、曲のよさを引き出すあたりが並みではない。
「La Manufacture De Sucre Engloutie」の幻想的な美しさと、エサリッジと絡む「The Last Blade Of Grass」、「Pentup House」のジャズロック調のスリルは特筆ものだろう。
もちろん、タイトル曲の途方もない迫力も見逃せない。
取り巻くミュージシャンはみな一様に優れたプレイを見せているが、特に、ウィリアムズの存在感がいい。
爆発的なエネルギーと正確なタイムを併せ持つドラミングは、明らかに演奏を支えている。
人選から見ても、ロックウッドへの期待はかなりのものであったのだろう。
(POCJ-2636)
Didier Lockwood | acoustic & electric violin |
Gordon Beck | piano |
Dave Green | bass |
Kim Plainfield | drums |
86 年の作品「Live At Olympia Hall」。
DIDIER LOCKWOOD QUARTET 名義のライヴ・アルバム。
基本的にはアコースティックなジャズ・アルバムだが、1 曲目の爆発力は SURYA そのもの。
激しく煽り立てるドラムスとともに、アンサンブルは一気に沸騰、ヴァイオリンは絶叫する。
そして、ゴードン・ベックの大胆にして繊細なピアノの表現もみごと。
いかにも才気あふれるという感じであり。明快な音色が小気味いい。
3 曲目のエフェクトを駆使してクラシックをコラージュするインプロヴィゼーションもカッコいい。
4 曲目はセンチメンタルなシャンソン風の小品だが、ヴァイオリンとピアノの丁々発止のやり取りに喝采を送りたくなる。
最終曲でも弾けたプレイを連発し、スケールの大きな演奏を繰り広げている。
アコースティックな編成でも、全然問題なくジャズロック、フュージョン足り得るという観点を再確認できます。
「Race Against Time」(5:47)
「Take Your Time」(6:16)
「Le Solo」(5:30)
「Vavavoum」(3:26)
「The Black Bird Beckons」(14:10)
(JMS18663-2)