スイスのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「GALAAD」。 88 年結成。 97 年解散。 作品は三枚。 フレンチ・ヴォイスと華麗な器楽による ANGE 直系、やや MARILLION 側のシアトリカルなシンフォニック・ロック。 この作風はポーランドの ABRAXAS へと引き継がれている。 2016 年再結成。2019 年新譜「Frat3R」発表。
Pierre-Yves Theurillat | vocals |
Gianni Giardiello | synthesizer, piano |
Sebastien Froidevaux | electric & acoustic guitars |
Gerard Zuber | bass |
Laurent Petermann | drums, percussion |
92 年発表のアルバム「Premier Février」。
クリスチャン・デキャン直系のアクの強いヴォーカリストによる演劇調の歌唱をフィーチュアしたトータル・アルバム。
異形の吟遊詩人、狂気の煽動家、錯乱の一人芝居路線という ANGE の血統であると同時に、MARILLION と同じく、初期 GENESIS のスタイルを受け継いでいる。
モティーフは「The Earth On Shoulder」なる掌編らしいが、フランス語に明るくないため、内容は分からない。
ギター、キーボード、リズム・セクションらのプレイとシンフォニックな効果の基本であるオルガンを軸とする分厚いバッキングなど、アンサンブルの作りこみは、20 代前半の若者とは思えぬ高い完成度を誇る。
特に、流麗にしてミステリアスなハケット=ロザリー流のギター・プレイと、アナログと思われる多彩なシンセサイザー・サウンドは、ポンプ系ではずば抜けている。
ピアノ、ギターなどアコースティックな音もうまく取り入れている。
ヴォーカリストは、パワフルな歌唱力をもち、一人芝居系の表情づけも堂に入っている。
同様なお芝居路線の VERSAILLES ほど極端に屈折した指向ではなく、ANGE と GENESIS、さらには英国ポンプ・ロックの影響をすなおに出しながら、70 年代の音も意識して物語を元にしたらしき曲想を綴る。
SE などの小道具の用い方もうまく、頻繁な調子の変化もじつになめらかである。
ハイレベルの演奏という印象を支えるのは、主として安定したリズム・セクションとヴォーカリストの存在感だろう。
特に、ドラムスのリードによる多彩かつ俊敏なリズム・チェンジは、ダラダラしがちなこの手の音にくっきりとメリハリをつけている。
例えポンプ・スタイルの演奏であっても、切れ味があり HM 的なクリシェに落ち込まないと、こんなにカッコいいと再認識させられた。
PENDRAGON、MARILLION らのオープニング・アクトもつとめたそうだが、この出来だとはっきりいって本編を食っていたでしょう。
耽美なメロディとともに、ロック本来の凶暴性や小気味よい運動性、シンプルさも忘れないフレンチ・ロックの逸品。
ネオ・プログレと冠する作品のうちでは屈指のものでしょう。
5 曲目は 11 分を目まぐるしい展開で描く文字通りドラマチックな作品。
6 曲目はロマンティックなピアノ・ソロから幕を開け、フルート、ストリングスが美しい御伽噺。
おそらく初期の習作でしょう。
個人的には、フランス語特有の厚ぼったく得意な響きがあるために、FISH のパフォーマンスほどはクサさが目立たないというおもしろい発見もあった。
耽美の演出は、大陸に一日の長があるようだ。
まあ ANGE のイメージが強いため、リスナー側に十分準備ができている、ということだろう。
ANGE、MONA LIZA の下流に位置し、時代とともに MARILLION らネオプログレとも合流できたという時流のタイミングのよさを生かした内容ともいえる。
「Janus」(8:53)長い長い序章を経て、ギターとキーボードが辺りを薄暗く寒々しく粘り気のある空気で満たし、狂ったピエロのようなヴォーカリストが物語をまくし立てる。
オールド GENESIS の呪い再び。
ギター、キーボードそれぞれにバランスよく主張を通す。
「Le Mendiant」(6:59)耽美で邪悪、素っ頓狂で乱調気味、どこにも行き場のないままに繰り広げられる病んだ心の一人芝居のような作品。
リズム・チェンジを繰り返しつつ、こね繰り回すようなギター/キーボード・プレイを徹底する。
HM 的な手癖がでないところがいい。
揺れ動く心象風景を描いた傑作。
「Petite」(5:02)御伽噺風の演出を効かせた作品。
ひそやかな歌唱、猛々しく立ち上がる器楽。オルゴール風のピアノもあり。
スタイル的には使い古されているが、それを割り引いても力作。
「Blasphémes」(6:01)
SP 盤風の演出からシャープな MARILLION 風ネオ・プログレへと展開する。
感傷を狂気へと昇華する歌唱表現は FISH に酷似する。
演奏はヴォーカリストのリードでリズムも一体となってグネグネと這い進む。
若々しく大胆に弾ける。
初期の習作か。
「Votre Mere」(11:28)
哀愁のバラードから始まってハードな展開も繰り返しつつ変転を遂げてゆくシンフォニック・ロック大作。
ハイ・テンションの器楽パートが充実しているし、ヴォーカルの登場するシーンでもその説得力がすごい。
ただし、いろいろと盛り込んだせいで妙に落ちつかないのも確か。
これは、どうしても普通の係り結びにまとまりたくないという若気の至りか。
一貫したものはないが、場面ごとには耳を惹きつける力がある。
ヴォーカルが流れを引きずり回して、赴くままにドラマをつづるスタイルは、VdGG 的というべきだろう。
「Sabliere」(11:56)
MONA LIZA を思わせる安定感あるクラシカルなバラード。
ピアノが導く序盤から、トラジックな響きに重みがある。
厳かな弦楽奏をバックにしたフルートは誰の演奏か。
後半からの扇動的なハードロック風の展開も、やや古めかしくはあるが、カッコいい。
「C'est De L'or」(4:47)メロディアスにして緊迫感のあるネオ・プログレらしい作品。
見得を切るようにひねりの効いたトゥッティがいい。
シンセサイザーがチープなことなど、この曲も初期作品だろうか。
(MUSEA FGBG 4070-AR)
Pierre-Yves Theurillat | vocals |
Gianni Giardiello | keyboards, chorus |
Sebastien Froidevaux | guitars, chorus |
Vincent Berberat | bass, chorus |
Laurent Petermann | drums, percussion, chorus |
96 年発表のアルバム「Vae Victis」。
よりコンテンポラリーなサウンドによる、メインストリーム・ロックへの接近を見せる第二作。
U2 や MARILLION などと同じく、現代を生きるロックという姿勢が感じられる。
それでいてサウンドは、MARILLION よりもフレッシュかつオリジナルなものだ。
一人芝居調の歌唱表現含め芳醇なるヴィンテージ・サウンドと伝統的スタイルに徹底してこだわった前作とは異なり、本作では若々しい貪欲さとストレートな表現衝動がある。
PEARL JAM を思わせるグランジ系の毛羽立つようにザラついた音に嘘がない。
カリスマ・ヴォーカリストは、怒りに燃えながらも FISHばり(TWELFTH NIGHT を思わせるところも)のエキセントリックな表情を見せてリスナーを翻弄し、ギタリストは多彩な技で吼え、シンセサイザーはそれらに抜群の反応を見せる。
すべてが、テクニカルにして尖がっており、熱狂的にしてクールである。
シュアーでタイトなビートがとにかくカッコいいし、今回は、ベーシストもかなりの腕前のようだ。
音楽的な自由さを緻密な構成と両立させるというプログレのツボの押さえ方の焦点もボケていない。
ジャズ/フュージョン、HR/HM といった既存表現の保守路線とは完全無縁のモダン・ロックであり、ポンプ・ロック/ネオ・プログレとして頂点を極めたといえる作風である。
ベタなコラージュやインサーションがこれだけ決まるのも、センスのよさでしょう。
本当はイギリスからこういう音が出てくるべき、と思うのは私だけでしょうか。
KULA SHAKER よりカッコいいし、ARENA なんかはこういうバンドも聴くべきでしょう。
2000 年以降のポーランド勢の隆盛以前にこんなにオリジナリティあるバンドがあったのです。
ヴォーカルはフランス語。
「L'épistolier」(6:51)
「Seul(Influenza)」(5:58)
「Le Feu Et L'eau」(4:24)
「La Danse De La Perte - I. Maybe We Are Brothers?」(8:20)
「La Danse De La Perte - II. Wasicum」(4:08)
「A Chacun Sa Cible」(6:22)
「Trahison」(4:51)
「Les Ondes」(5:30)
「L'arbre Du Rendez-vous」(1:32)
「La Loi De Brenn」(11:58)
「Une Rose Noire」(7:09)
(6422 ARC 328)