イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「INGRANAGGI DELLA VALLE」。2010 年結成。作品は二枚。 ヴァイオリンをフィーチュアしたテクニカル・ロック。
Mattia Liberati | Hammond B3, Mellotron M400/M4000, Fender Rhodes Mk V, MiniMoog, MiniMoog Voyager, piano, backing vocals | |||
Alessandro Di Sciullo | electric & acoustic guitar, Moog Minitaurus, Mellotron M400/4000, Roland CR808/909, Akai MPC Couch, Korg Kaoss Pad KP3, electronics, backing vocals | |||
Flavio Gonnellini | electric guitar, backing vocals | David Savarese | vocals, glockenspiel, dry Rhodes MK V on 5 | |
Marco Gennarini | violin, backing vocals | Antonio Cornato | bass | |
Shanti Colucci | drums, percussion | |||
guest: | ||||
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Fabio Pignatelli | bass on 3 | Florian Lechner | narration on 2 | |
Stefano Vicarelli | modular synthesis on 5 | Paolo Lucini | traverse flute solo on 3 |
2017 年発表のアルバム「Warm Spaced Blue」。
内容は、幻想的でジャジーな音響主義的テクニカル・シンフォニック・ロック。
フルートやメロトロン、ピアノ、ヴァイオリンなどクラシカルなサウンドを駆使しつつ、サイケデリックな幻惑感(ポスト・ロック・テイストによる逆輸入か)も大幅に取り込んだ、異世界的な色彩感覚の作風である。
全体に、音響への強いこだわりが感じられる。
ムーグやローズを多用するキーボード・アンサンブル、レガートにうねるギター、弾力にあふれキレもいいリズム・セクションなどの明快な特徴をもつ演奏は、緻密かつ技巧的、そして同時に、彷徨い続けるが如くに融通無碍である。
とはいえ、ジャズロック風のアドリヴ回し的なところはほとんどなく、耽美な色合いのサウンドとキレのあるプレイを編み上げたアンサンブルを主役にして美しくも妖しい文様のような物語を綴ってゆくスタイルである。
は
メロディアスなのだが単純な情感の係り結びを潔しとせず、つかみどころのない抽象的なタッチや虚無的な表情も交えて語っており、いかにも現代を生きる音らしい。
そして、奇矯さやぶっ飛び感で勝負するのではなく、しなやかにして雄雄しく、時に控えめですらある表現にもかかわらず正攻法で堂々と訴えかけてくる。
そういう意味ではイタリアン・ロックらしさがいい意味で希薄であり、このセンスはバロックがもてはやされた 70 年代を正統的なテクニックで乗り切った GOBLIN とも共通する。
そして、メロトロンがささやき、ローズやヴィヴラフォンのうつろな響きとともにヘヴィなギター・リフが唸りをあげると、当然ながら KING CRIMSON に直結してくる。
何にせよプログレ王道感は強い。
ジャジーで敏捷、安定感も抜群の器楽アンサンブルは、ボローニャの従兄弟 DEUS EX MACHINA、北米の雄 ECHOLYN の系譜であり、そこに線の細いニヒリスティックなヴォーカリストの歌唱が交わると、北の邪神 ANEKDOTEN のようにもなる。
あるいは、サイケデリック感覚が過剰な ARTI E MESTIERI ともいえるかも。
曲名から想像するに、この界隈では人気のあるラヴクラフトの「クトゥルー神話」がテーマのようだ。
21 世紀の KING CRIMSON はこうなるべきだったのかも知れないと思わせる内容です。
ヴォーカルは英語など。
「Call For Cthulhu: Orison」(9:24)非常に謎めいたヘヴィ・ジャズロック、というか KING CRIMSON 風の硬質なヘヴィ・ロック。妖しく脈動し、にじむ音がいい。
「Inntal」(10:36)ジャジーな響きもある ANEKDOTEN 的なポスト・ロック。フェンダーローズ、メロトロン・フルート/ストリングスを駆使。エンディングに向うギター、ヴァイオリンに深いカタルシス。
「Call For Cthulhu: Through The Stars」(3:16)トラジックで神秘的な間奏曲。
「Lada Niva」(8:52)攻撃的にして弾力に富み、歪んだ叙情性を撒き散らすヘヴィ・チューン。冴えわたるリズム・セクション。終局に向かう姿が正統プログレとしてひたすら美しい。
「Ayida Wedo」(5:55)メカニカルでポリリズミックなアンサンブルがいざなうフュージョンの迷宮。変拍子でもしなやかに優美。しかしその実体は後半で牙を剥く。バラバラにほどけてゆくようなエンディングに怖気。
「Call For Cthulhu: Promise」(11:48)アーシーなオルタナ風味もある重厚なテクニカル・シンフォニック・ロック。
メロトロンのみならずオルガンもフィーチュアしてヘヴィ・プログレ的演出は完璧。前半部の展開はこれまでよりも志向が明快なので印象も深い。
後半部で長いブレイクの果てに邪悪な何かが甦る。「蝿の王」か。終盤のインダストリアルなサウンドによる演出もカッコいい。
傑作。
(BWRCD 191-2)
Igor Leone | vocals | Flavio Gonnellini | electric & acoustic guitar, backing vocals | |
Marco Gennarini | violin, backing vocals | Shanti Colucci | drums, nagara, gatham, Tibetan bells, other percussion, Konnakol | |
Mattia Liberati | Hammond B3, Mellotron M400, Fender Rhodes MkII, MiniMoog Voyager, Korg MS20, Elka Sythex, Jens SX1000, Clavia Nord Stage Revision B | |||
guest: | ||||
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Marco Bruno | bass on 2 | Edoardo Arrigo | bass on 3,5, backing vocals | |
Simone Massimi | electric & fretless & electric upright bass | Luciano Colucci | indian mystic speech on 9 | |
Fabrizio Proietti | classical guitar on 11 | Beatrice Miglietta | backing vocals on 11 | |
special guest: | ||||
Mattias Olsson | drums on 9, synthesizer & weird noises on 10 | Angelica Saupret Scutti | backing vocals on 11 | |
David Jackson | sax, flute on 11 |
2013 年発表のアルバム「In Hoc Signo」。
内容は、テクニカルかつオペラティックなジャズ系シンフォニック・ロック。
緻密なリズムとスピードのあるプレイを思うままに組み合わせ、スリリングな急展開を自由自在に繰り返す演奏スタイルは、EL&P や YES、GENESIS から出発して、よりダイナミックな音楽を志向した結果だろう。
70 年代中盤以降のプログレッシヴ・ロックによく見られたように、ジャズロック/フュージョンからの影響は非常に大きい。
そして、いかにもイタリアン・ロックらしく、情熱的で過剰で、大仰、大胆な芸風である。
軸となるのは、線は細いがノーブルにして存在感もあるヴォーカリスト、そしてそれを支えるタイトにして弾けるような器楽アンサンブル。
レガートなヴァイオリンと、変拍子をガシガシ刻みまくるリズム・セクションの並置と対比が特徴的だ。
リズム・チェンジやテンポ・チェンジ、急停止ブレイクをものともせずに決め捲くっていくアンサンブルはとにかくカッコいい。
そして、ジャズロックの典型のような演奏から思い切って飛び出してしまう勢いがある。
予定調和をよしとせず、演奏全体にパワーがあふれ、しなやかでダイナミックであり、スカっとした突き抜け感があるのだ。
勢いのあまりに折れ曲がりすぎて脈絡から逸脱寸前に陥るところや、詰め込みすぎてバランスが危うくなるところ、暴走の果てに破綻すれすれになるところも、このスタイルなら自然だし、むしろ魅力になっている。
この作風は、DEUS EX MACHINA や D.F.A にイタリアン・プログレらしいロマンチシズムを追加投入した感じ、あるいは 70 年代中盤の P.F.M と共通する。
(この連想はヴァイオリンがアンサンブルをリードする位置にいるせいだろう)
また、メローなフュージョン・タッチやハードロック風の泣きといったある種露骨な表現や、さらには GENTLE GIANT 風のワイルドにして抽象的な変拍子トゥッティなどは、メンバーの趣味であろう。
ヴォーカルは表情豊かなベルカント表現に加えて、オペラ風の豪勢なハーモニーもある。
キーボーディストはヴィンテージ品を並べたクレジットのわりには、音響的な適材適所に長けていて、単なる音見せではなく楽曲を支える役目を堅実に果たしている。
オブリガートや裏でのオルガン、ピアノ、シンセサイザーのプレイが光る。
おそらくジャズ系の達人だろう。
リズム・セクションはとにかく音数勝負。
ギタリストは明らかなアラン・ホールズワース・ファンであり、リズムを意図的に外すようなレガート・プレイでアウト・スケールを駆け巡る。
いずれも、いかにもテクニカル・フュージョンがもはや演奏のヴァリエーションの基本の一つに過ぎなくなってからの時代のプレイヤー達であろう。
これらの役者による緊密かつエネルギッシュなアンサンブルが自由自在に走り回り、急旋回し、また全力で疾走する。
そのスリルと熱気と走り去った後に漂う芳しきロマンの残り香が魅力である。
技巧もサウンド面も充実した上に、ジャズの安定を超えてさらなる高みへと飛び出してゆくような痛快さのあるイタリアン・ロックの傑作。
風を切るようなスピード感がいいです。
ヴォーカルはイタリア語。
タイトルは「この徴により(汝勝利せん)」の意(ラテン語らしい)。
「Introduzione」(0:14)
「Cavalcata」(5:49)
「Mare In Tempesta」(3:17)
「Via Egnatia」(5:41)
「L'Assedio Di Antiochia」(8:13)耳鳴りがしそうなほどに急旋回を繰り返す一つ目のクライマックス。力演。
「Fuga Da Amman」(5:56)超絶ギターと超絶シンセサイザーを思い切りフィーチュアするテクニカル・フュージョン。
好きな人には応えられないはず。
「Kairuv'an」(6:08)RETURN TO FOREVER 的なフュージョンと思わせて、じつは P.F.M。アコースティック・ピアノ、アコースティック・ギターが主役。
「Masqat」(5:15)DEUS EX MACHINA ばりのテクニカル・ジャズロック。パーツはフュージョンっぽいが、構成された全体像はかなり変態的。
「Jangala Mem」(6:46)イントロは「Lamb」か? 以降はミステリアスな展開へ。イタリアン・ロックの基本姿勢は驚いたことに 70 年代と変わらず。
「Il Vento Del Tempo」(7:00)二曲前のジャズロック調とアヴァンギャルドなプログレの合体技。
「Finale」(9:33)メローなタッチも悪くない終曲。
(BWRCD 155-2)