フランスのプログレッシヴ・ジャズ・グループ「ORCHESTRE NATIONAL DE JAZZ」。 1986 年創立の国立ビッグバンド。音楽監督/リーダーを定期的に交代して存続する。
François Jeanneau | musical direction, saxes, keyboards | ||
Christian Martinez | trumpet, bugle | Eric Mula | trumpet, bugle |
Michel Delakian | trumpet, bugle | François Chassagnite | trumpet, bugle |
Denis Leloup | trombone | Jean-Louis Damant | trombone |
Yves Robert | trombone | Didier Havet | tuba |
Eric Barret | tenor saxophone, soprano saxophone | Jean-Louis Chautemps | soprano saxophone, alto sax, flute |
Pierre-Olivier Govin | alto sax, flute | Richard Foy | soprano saxophone, tenor saxophone, flute, clarinet, bass clarinet |
Marc Ducret | guitar | Bruno Rousselet | baritone saxophone, bass saxophone, bass clarinet, bassoon |
Andy Emler | piano, synthesizer | Denis Badault | piano, synthesizer |
Michel Benita | bass guitar, double bass | Aaron Scott | drums |
François Verly | vibraphone, marimba, percussion | John Scofield | guitar on 8 |
86 年発表のアルバム「Orchestre National De Jazz 86」。
管楽器(サックス、トランペット、トロンボーン、チューバ)セクション、リズム・セクション(ギター、キーボード、ドラムス、パーカッション)の二十人で構成されるジャズ・オーケストラによる、コンテンポラリーなビッグバンド・ジャズ作品。
キーボード、ベース、ギターは電気楽器も使用する。
総監督はフランソワ・ジャニューが務める。
アンサンブル、ソロともに、サスペンスフルなモダン・ジャズ調から尖鋭的なフリー・ジャズと現代音楽、メローなフュージョン・タッチにまでわたる多彩な表現が、明快なアレンジとシャープなリズムの上で繰り広げられる。
遁走曲風のアレンジやポリリズム、またソロの一部など、アヴァンギャルドで複雑、精緻な表現もあるが、全体としては、輪郭のはっきりとした現代的なサウンドとアーティキュレーションによるきわめて垢抜けたパフォーマンスというイメージである。
カラフルで細やか、そして立体的な音の組み立てはギル・エヴァンスの流れにあると思う。
華やかでなめらかな管楽器セクションに魅力を感じられれば全編楽しめるでしょう。
個人的には、PAT METHENY GROUP 風に聴こえるところも多かった。(ウインド風のシンセサイザーやエレクトリック・ベースのプレイによるようだ)
楽曲は、フランソワ・ジャニュー、デニス・バドール、マイク・ギブス、アンディ・エムラー、ギル・エヴァンスによる。
ジャニュー作の 4 曲目「Kalimba」は、アフリカ音楽をビッグバンドで再現したオーガニックでユニークな作品。
素朴な旋律のテーマを巡ってマルク・デュクレのギターやシンセサイザーなどのキレのいいアドリヴが続き、とにかく楽しい。
ドラムス、パーカッションの効きもいい。
Keith Tippett の「Septober Energy」や「Ark」または Mike Westbrook の「Metropolis」のファンは見逃せません。
「Jazz Lacrymogene」(10:45)ジャニュー作。フュージョン・タッチも交えた突き抜け感のたまらない好作品。
「Sur Les Marches De La Piscine」(10:35)バドール作。
「Fantasie Be Bop」(5:21)ジャニュー作。洒脱なビッグ・バンド・ジャズ。サックスとピアノのデュオも秀逸。
「Kalimba」(14:26)ジャニュー作。痛快。
「Watershed #1」(3:22)ギブス作。独特の知的なロマンを湛えるフュージョン・ビッグバンド。
「Watershed #2」(3:58)ギブス作。一転、官能的なナイト・ミュージック。ソプラノ・サックスの精妙な表情がいい。クラシカルなシネ・ジャズ調も。
「Superfrigo」(6:30)挑戦的なビートがカッコいい変拍子、ポリリズム・ジャズロック。
エムラー作。鍵盤打楽器をフィーチュアするところではザッパ風味もあり。最先端のジャズ。
「Waltz」(9:54)エヴァンス作。エヴァンスの神秘的なライフワークをふわっと柔らかな音で奏でる。シンプルなテーマにベースがオブリガートするところがいかにもモダン。ケニー・バレルの役は、ゲストらしき「ジョンスコ」。彼らしい不器用で調子っ外れな感じも悪くない。
名曲。
(LBC 6503)
Antoine Hervé | music director, piano, emulator | ||
André Ceccarelli | drums, percussion | Jean-Marc Jafet | bass |
Nguyen Le | guitars | François Verly | percussion, tabla, marimba |
Philippe Guez | keyboards | Denis Leloup | trombone |
Glenn Ferris | trombone | Jacques Bolognesi | accordion, trombone, bass trombone |
Didier Havet | tuba, bass trombone | Philippe Slominski | trumpet, bugle |
Antoine Illouz | trumpet, bugle | Michel Delakian | trumpet, bugle |
Jean-Pierre Solves | baritone saxophone, bass clarinet, flute | Alain Hatot | soprano saxophone, alto saxophone, flute |
Gilbert Dall'Anese | soprano saxophone, alto saxophone | Francis Bourrec | tenor saxophone, soprano saxophone |
Dee Dee Bridgewater | vocals on 6 |
87 年発表のアルバム「Orchestre National De Jazz 87」。
音楽監督は若干 28 歳のアントワーヌ・エルヴェに交代。
内容は、スウィング・ジャズをアクセントにした 80 年代らしいコロニアル・タッチのビッグバンド・ジャズロック。
管楽器の豊かな音色で歌い上げる、カラフルでみずみずしく、オシャレで知的(カンタベリーのニュアンスあり)なイメージの演奏である。
過激な即興はほとんどなく、メロディアスなソロを紡いでゆくため耳にやさしく、車でかけても同乗者が眉をひそめることはないでしょう。
戦前や 50 年代ほどには熟成してはいないが、野放図に潤っていた最後の時代である 80 年代の芳醇な空気は伝わってくる。
それにしてもディディエ・ロックウッドのヴァイオリンやエフェクトしたベースがよく似合うフュージョン風の作品がここまで時代物に聴こえるところに驚いた。
気鋭のグウェン・ルーのギター(テリエ・リプダル調もあり)も冴える。
ドラムスは多才な大物アンドレ・チェカレリ。モダン・ジャズ過ぎない打撃技はさすがの一言。
主役のロマンティックなピアノはもちろん活躍、アコーディオンや鍵盤打楽器などのアクセントも非常にいい。
楽曲は、エルヴェ、チャールズ・ミンガス、セロニアス・モンク、グウェン・ルー、ダニエル・ゴヨーネによる。
音の感触が、ビル・ブルフォードの EARTH WORKS に似ています、というかみんな PMG 経由か?
「Orange Was The Colour Of Her Dress, Then Silk Blue」(6:40)チャールズ・ミンガス作。
「Babel Tower」(5:20)エルヴェ作。
「Desert City」(4:31)エルヴェ作。
「The Slinker」(4:14)ダニエル・ゴヨーネ作。
「Sous Les Lofts De Paris」(15:34)エルヴェ作。室内楽風味もある、おだやかで優しげだが挑戦的な作品。
「Round About Midnight」(5:51)セロニアス・モンク作。
「Tutti」(5:43)エルヴェ作。
「Processor」(8:09)グウェン・ルー作。ここで初めてホールズワース化。
「Dans La Neige」(5:06)エルヴェ作。
(LBC C6511)
Claude Barthélemy | musical direction, conductor, guitars | ||
Jean-Louis Matinier | accordion | Robert Rangell | alto sax, flute |
Jean-Luc Ponthieux | bass, contrabass | Gérard Siracusa | body percussion |
Michael Riessler | clarinet, alto sax | Renaud Garcia-Fons | contrabass |
Christian Lété | drums, percussion | Manuel Denizet | drums, tabla, percussion, drums |
Gérard Pansanel | guitars | Serge Lazarevitch | guitars |
Mico Nissim | piano | Yves Favre | trombone |
Luca Bonvini | trombone, performer | Patrick Fabert | trumpet, cornet |
Jean-François Canape | trumpet, flute | Michel Godard | tuba, serpent |
Claire Fargier-Lagrange | viola |
91 年発表のアルバム「JACK-L!NE ONJ 90/91」。
内容は、管弦鍵盤+リズム・セクションによる、モダン・ジャズと現代室内楽を直結させたようなビッグバンド・ジャズ。
総監督はギタリスト、クロード・バルテルミが務める。
1 曲目はソニー・ロリンズの名作をアレンジしたオーソドックスなビッグ・バンド・ジャズで迫るも、その後はバリバリのギター・ジャズロックから KING CRIMSON ばりの人力シーケンス、アコーディオンと弦楽器をフィーチュアした現代音楽など、爆発力のあるテクニカルなプレイを駆使して、破格気味の多彩な作風を披露する。
ぶっ飛んだフリージャズやドシャメシャのアヴァンギャルドよりははるかにビッグ・バンドらしい華と熱気、明快な脈絡のある音だが、ミニマリズムや無調に代表されるアブストラクトな表現も多く交えており、クラシック寄りの現代音楽的な肌合いは全体に貫かれていると思う。
いわゆるジャズのビッグバンドと異なるイメージは、ギターを筆頭にアコーディオンやヴィオラ、パーカッション類といった管楽器以外の楽器が大きく取り上げられるためでもあるだろう。
ブラス・セクションもメロディアスに迫ったり金切り声に近い大胆な音を放つなど充実しているが、どちらかといえば、バッキングとして主役を支え、持ち上げている印象である。
現代音楽からイメージされがちな深刻さや険しさ、奇天烈さはさほどではなく、熱や強さ、勢いといったジャズの肉体性は堅持されており「歌」としての呼吸や抑揚、情動の自然な流れも感じられる。
抽象的な変拍子パターン反復を軸とする作品でも、多様な音を交えることで新奇な有機性を生み出せている。
グルーヴィでメロディアスなポピュラー・ミュージックと新しい地平を希求する前衛精神のバランスのいいブレンドといえそうだ。
ジャズという言葉に拘泥せずに、素直に耳にしたものを楽しむのがいい。
タイトル曲は、室内楽フリージャズ。
「Airegin」(10:51)
「Jean Luc Ponthieux」(5:05)怪しくも官能的なギターを中心に破裂し続ける衝撃のジャズロック。ギターはビル・フリゼールとテリエ・リプダルの合体技。
「"Manuel" A」(3:45)スリリングなブラス・セクションをバックに、超絶的なアコーディオンをフィーチュア。
「"Manuel" B」(6:38)鍵盤打楽器をフィーチュアした変拍子ミニマル・ミュージック。エンディング近くにアランフェス協奏曲の第三楽章のテーマが現れる。
「Body Music One」(0:15)
「Toutes Mes Amours Sont Claire」(5:12)ヴィオラがリードする室内楽風の作品。
「JACK-L!NE」(2:38)シャコンヌばりのヴィオラ・ソロ+ノイジーなアコーディオンと管楽器群。
「Toutes Mes Amours Sont Claire "Slight Return"」(0:50)
「IVAN LENDL」(8:39)小品ながらもギターとサックス、トロンボーンが込み入ったパンチのあるやり取りを見せる軽妙なるジャズ・ファンク。X-LEGGED SALLY 的である。
「2 Bass Beat」(1:55)
「Luv At 1st Sight」(5:24)
「What A Time」(7:07)豪腕系集団即興。本作品では唯一のフリージャズ。
「Body Music Two」(0:17)
「Samarcande "A Caen La Paix"」(2:49)
(LBLC 6538)
Denis Badault | director, piano | ||
Laurent Hoevenaers | cello | Heiri Kaenzig | contrabass, guitars |
François Laizeau | drums | Lionel Benhamou | guitars |
Xavier Desandre-Navarre | percussion | Philippe Sellam | saxophone |
Rémi Biet | saxophone | Simon Spang-Hanssen | saxophone |
Geoffroy De Masure | trombone | Jean-Louis Pommier | trombone |
Claude Egea | trumpet, bugle | Claus Stötter | trumpet, bugle |
Didier Havet | tuba | Nedim Nalbantoğlu | violin |
Elise Caron | vocals |
92 年発表のアルバム「À Plus Tard」。
内容は、フリージャズにノスタルジックなシーンを盛り込むなど独特のひねりのある脈絡にメローなフュージョン、スムース・ジャズのセンスがチラ見えする現代ビッグ・バンド・ジャズ。
監督はピアニストのデニ・バドー。
アッパーなビートを果敢に迎え撃つアグレッシヴなソロ、そしてときにパワフルにソロを追撃し、ときに優美に守り立て、ときに強烈な自己主張を振り回すブラス・セクション。
唐突にメロディアスなソロやヴォイス・パフォーマンスも印象的。
おもしろいのは、こういったカラフルながらも比較的オーソドックスなパーツを大胆に組み合わせて、一つの曲の中でリスナーが置いてきぼりになるほど急激な変転をさせること。
ピアノの割合が上がると基本的にオシャレに聴こえてしまうのは吾輩のバイアスの生ぜしめるところの悪癖である(マンハッタン・トランスファー風のスインギーなスキャットがあるのでなおさらである)が、そのピアノのバックを彩るアンサンブルの色合いがいい。
輪郭のはっきりとしたフロントのソロを際立たせるのはその色合いだ。
極太の攻めのユニゾンも、奇怪な旋律を上下こそするものの、つややかさは常に保たれている。
個人的には、もう少しリズム・セクションがロックなビートを打ち出してほしかった。
そして、ギターの活躍スペースをもっともうけてほしかった。
NUCLEUS、 Mike Gibbs などのファンにはお薦め。
「For K. W.」(10:02)
「Cool Couches」(10:03)序盤はパーカッションをフィーチュアしたアフリカンな展開、中盤からはパワフルなブラスが主張を強め、トロンボーン・ソロ、サックス・ソロと続く。
「Les 3 S」(11:28)NUCLEUS と同等の屈折感と神秘性のある佳曲。
リリカルにして無常感あるトランペット・ソロ、きらめくようなピアノ伴奏、ナイト・ミュージック調に交わる哀愁。4 ビートのアンニュイはヴェルヴェットのようなブラス・セクションへと引き継がれ、グルーヴィでスィンギーな世界に酔いしれる。
「Lent Et Long」(5:01)
「Cool Couches "Le Retour"」(5:26)
「Avant A Plus Tard」(2:57)
「A Plus Tard」(7:19)
「Un Instant Peu Raisonnable」(10:08)
(LBLC 6554 HM 83)
Denis Badault | director, piano | ||
Elise Caron | vocals, flute | Claude Egea | trumpet, bugle |
Claus Stötter | trumpet, bugle | Geoffroy De Masure | trombone |
Jean-Louis Pommier | trombone | Didier Havet | tuba |
Laurent Blumenthal | alto & soprano sax | Simon Spang-Hanssen | tenor & soprano sax |
Rémi Biet | tenor sax, clarinet, flute, EWI | Nedim Nalbantoğlu | violin |
Laurent Hoevenaers | cello | Lionel Benhamou | guitars |
Bob Harrison | contrabass, bass | Xavier Desandre-Navarre | percussion |
François Laizeau | drums |
94 年発表のアルバム「Bouquet Final」。ライヴ録音。
内容は、ジャズ、ジャズロックのプレイから構成されたクラシカルなオーケストラ音楽。
変則リズムや反復の多用といった特徴も近現代クラシックからのものだろう。
管弦、ギター、打楽器などアイデアあふれる多彩なプレイがフィーチュアされ、サックス、トロンボーン、トランペットの血を吐くように熱いアドリヴやビッグバンド・ジャズのエネルギッシュで痛快なユニゾンが楽しめる。
そういう中で一番印象に残るのは、色彩感覚あふれるアンサンブルによる叙景の妙である。
ジャズ・ビッグバンドの編成でクラシックのオーケストラを上回るイメージを描き出している。
70 年代ジャズロック、フュージョン風のメローでファンタジックな作品や 4 ビートのアグレッシヴなモード・ジャズ、ヴォーカル・パフォーマンスをフィーチュアして攻めの前衛性を発揮する作品(ブラジルの前衛音楽家アリーゴ・ベルナーベに通じる)もあり。
あまりジャンル分けに拘泥せずに頭から音を浴びて楽しむタイプの音だ。
監督はピアニストのデニ・バドー。
「But Where Is The Exit?」
「Part 1」(3:44)
「Part 2」(5:51)
「Un Beau Jour De Printemps(Suite En 7 Mouvements)」
「A La Claire Fontaine」(3:37)
「Le Viking」(4:18)
「Le Lion」(7:00)
「Casquette」(5:47)
「L'Aller Et Retour」(8:01)
「Un Beau Jour De Printemps,Si Tu Veux Bien...」(7:20)
「Et Après?」(6:20)
「Garden Party」(7:15)
(LBLC 6571 HM 83)
Claude Barthélemy | director, guitar, oud | ||
Didier Ithursarry | accordion | Médéric Collignon | cornet |
Nicolas Mahieux | contrabass | Jean-Luc Landsweerdt | drums |
Olivier Lété | bass | Alexis Thérain | guitar |
Vincent Limouzin | percussion, gamelan, marimba, vibraphone | Philippe Lemoine | soprano & alto & baritone saxophone |
Vincent Mascart | soprano & tenor saxophone | Jean-Louis Pommier | trombone |
Sebastien Llado | trombone | Pascal Benech | trombone |
Geoffroy Tamisier | trumpet | ||
2004 年発表のアルバム「La Fête De L'Eau 」。
内容は、エキゾチズムやノスタルジーをスパイスにした知的でグラマラスなコンテンポラリー・ジャズ。
フリージャズの発展系として、脱構築系即興の応酬やお下劣ファンク調に、ミニマリズム、変拍子、複合和音、ポリリズム、ヴォイス・パフォーマンス、無調、ノイズといった現代音楽的な表現を取り込んだ作風であり、さらにそこへフランスのルーツ・ミュージック(アコーディオンが随所に散りばめられているだけでそう思ってしまうのは、わたしの偏見かつイメージが貧困なせいだろう)や異国趣味を自然に交差させている。
吹き荒れる嵐のようなホーン・セクションの波状攻撃に、アコーディオンの響きと小粋なパリジェンヌのささやきがノンシャランと交わり、気がつけばサックスも絶叫からノスタルジックなヴォードヴィル調に変わっていたりする。
ただし、ドラッグ・クイーンのラインダンスのようなコミカルかつ不気味な妖しさが常にある。
もちろん、5 曲目のようなシャープでスリリングな現代ジャズの魅力を直球勝負で決めてくるところもしっかりある。
一方、目の回るようなポリフォニック反復パターンにホーンがアドホックにからみつく、あたかも不合理とアンバランスを象徴するような表現も多い。
メタリックなギター(ちなみにギターはかなりやりたい放題)が前面に出ると、HENRY COW にかなり近づくが、こちらの方が能天気である。
オムニバスらしき 7、8、9 曲目のヘヴィなギター・サウンドを交えた爆裂フリージャズ(ぐちゃぐちゃということ)がカッコいい。
現代のアーティストとして面目躍如たるパフォーマンスである。
何より、そういうアブストラクトでアヴァンギャルドな表現とモダン・ジャズらしいスィンギーでノスタルジックな表現を巧みに渡り歩くところがすごい。
ホーン・セクションによるカラフルかつ巧みな色調の変化とパワフルな演奏と魅力的なソロもあるのでビッグ・バンドのファンにはもちろんお薦めだが、奔放さや大胆さはアヴァンギャルド・ジャズのファンにも受け入れられるだろう。(そういう意味では、バルテルミ氏が監督をつとめる O.N.J の諸作は好みを分ける可能性あり)
「La Fête De L'Eau」(4:38)妙に肉感的なブカブカのリフが強烈な"ジャズロック"。
「Sparadrap714」(1:33)ギターの主導するつむじ風のような即興。バンドエイドのこと?
「Corvisart」(5:10)俯くモノローグの頭上をけたたましい管楽器群が通過するレゲエっぽい作品。
少しラリッたトロンボーンがカッコいい。軽妙なようでパンチもあり。
「Avec Titre」(1:20)
「Badgag」(8:57)カラフルで小粋で官能的なビッグバンド・ジャズ。
「Mama Barth Blue」(3:19)ナチュラル・ディストーション・サウンドのギターがリードするブルージーなジャズロック。
「Caténaires」(2:06)
「S&R」(1:12)沸騰。
「Montbernage-Queen」(2:25)
「Oud-Oud」(4:58)ウードのエキゾティズムも逞しく肉感的なジャズへと引き込まれる。終盤は AREA。
「Hati-Hati」(3:17)
「Giant Steps」(5:08)コルトレーンの名曲。ギターがんばる。
「J'ai La Mémoire Qui Flanche」(4:13)
「Two Bass Beat」(3:31)
「Byron」(5:45)
(274 1228)
Franck Tortiller | director, vibraphone | ||
Vincent Limouzin | vibraphone, marimba, electronics | Patrice Héral | drums, percussion, voice, electronics |
David Pouradier Duteil | drums | Yves Torchinsky | contrabass |
Jean Gobinet | trumpet, bugle | Eric Séva | tenor & soprano sax |
Michel Marre | tuba, bugle | Jean-Louis Pommier | trombone |
Xavier Garcia | clavinet, sampling |
2005 年発表のアルバム「Close To Heaven」。
LED ZEPPEIN トリビュート作品。
総監督は、ヴィブラフォン奏者のフランク・トルティエ。
「Black Dog」、「Dazed And Confused」、「Stairway To Heaven」など、かなりの有名曲がテーマは残しつつも大胆にアレンジされている。
ロックとして極みにいる曲をさらにロックとして芸術性を高めるのは困難だったようで、フリージャズ含めアコースティックなジャズ側に引き寄せて新たな魅力を見つけようとしている。
一歩間違えるとスーパー・マーケットの BGM になってしまうだろうから、かなり苦労はあったと思う。
元の作品を活かしつつ新たな魅力を惹きだすのか、元の作品は出発点に過ぎずそこから自由にイマジネーションを膨らませるのか、その辺があまり明快ではないので、元曲がからだにしみついている人に薦めていいのかどうかが分からない。
トルティエが好きなのでとりあえずやってしまったが結果は微妙でした、というのが本音ではないだろうか。
個人的には「Four Sticks」と「Close To Heaven - II」のクラシカルなアンサンブルがよかった。
このロックの下地にあるブルーズというのはフランス人にはとっつきが悪いようで、とりあえずいったんシャンソンに落とす必要があるのかもしれません。
本国フランスではバカ売れしたそうです。
(274 1407)
Franck Tortiller | director, vibraphone | ||
Jean Gobinet | trumpet, bugle | Vincent Limouzin | vibraphone, marimba, electronics |
Joël Chausse | trumpet, bugle | Patrice Héral | drums, voice, electronics |
Eric Séva | sax | Claude Gomez | samples, mix |
Jean-Louis Pommier | trombone | Yves Torchinsky | contrabass |
Michel Marre | tuba, bugle |
2007 年発表のアルバム「électrique」。
内容は、クールにして埋み火のようなロマンの熱を秘めたコンテンポラリー・ジャズ。
総監督は、ヴィブラフォン奏者のフランク・トルティエ。
マイルス・ディヴィス直系のリード・トランペット奏者のプレイをフィーチュアし、大胆なエレクトロニク・サウンドもコラージュ風に交えた、古典的にして刺激的、まさにマイルス風の作風である。
ヒップホップ調のデジタル・ビートとノイズがサイケデリックな効果を上げるも、ファンクなアシッド感よりはアブストラクトな浮遊感を活かした空間的な表現が主のように感じる。
ヴァイヴの余韻がその浮遊感、漂いの底にある憂いや哀愁の味わいに大きく寄与している。
ヴァイヴはエレクトリック・ピアノによるオスティナートのようなデジタルで無機的な効果も巧みであり、そこに肉感的なトランペットが絡むことで、モダン・ジャズのクールネスがよりプログレ的になっていると思う。
8 ビートに煽られるトランペット・ソロのファンク寸前な独特の腰の強さ、叙景的なブラス・セクションのクラシカルでロマンティックな味わい、MJQ ばりの映画音楽的アンサンブル、サックスやトロンボーンの豊麗なるソロなどなど、ジャズそのもののさまざまな魅力もある。
一方、ビッグ・バンドらしいパワフルなつややかさも堅持されているので、そちらのファンも受け入れ可能である。
総じて、ゴリゴリのフリージャズでは決してなく、マイルスへのリスペクトに加えて、ロマンティックなムードの中に「巧みさ」や「軽妙さ」(これがエスプリというヤツか?)が表れた、キャッチーな音になっていると思う。
「Ouverture - Part 1」(1:48)
「Ouverture - Part 2」(7:10)
「Landscape」(4:24)サスペンスフルにしてどこまでも哀しげな佳曲。
「Électrique - Part 1」(4:15)ペットが突き抜けるところもあるが、全体としてはグネグネした三部作。
「Électrique - Part 2」(2:52)
「Électrique - Part 3」(4:02)
「In April」(2:33)マイク・ギブスを思わせる空ろなタッチがいいイントロ風小品。
「Sometimes It Snows In April」(7:04)クレジットによればプリンスの作品らしい。
「The Move - Part 1」(4:36)ベース・ソロが導くミステリアスなマイルス・ディヴィス風の作品だが、バッキングのヴァイヴのおかげで KING CRIMSON にも聴こえる。
「The Move - Part 2」(3:54)変拍子ジャズロック。カッコいい。
「Les Angles」(8:00)開放感とデリケートな美感が共存する傑作。
「Last Call Before Midnight」(3:55)
「Fermeture」(1:46)
「Last Call Before Midnight」(4:36)
(274 1516)
Daniel Yvinec | director | Rober Wyatt | vocals |
Antonin-Tri Hoang | alto saxophone, clarinet, piano | Guillaume Poncelet | trumpet, piano, synthesizer, electronics |
Yoann Serra | drums | Sylvain Daniel | electric bass, french horn, effects |
Joce Mienniel | flute, electronics | Pierre Perchaud | guitar, banjo |
Vincent Lafont | keyboards, electronics | Eve Risser | piano, prepared piano, flute, sounds |
Remi Dumoulin | saxophone, clarinet | Matthieu Metzger | saxophone, electronics |
guest: | |||
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Rokia Traoré | vocals | Arno | vocals |
Yael Naïm | vocals | Daniel Darc | vocals |
Camille | vocals | Irène Jacob | vocals |
2009 年発表のアルバム「Around Robert Wyatt」。
本人のヴォーカルをフィーチュアしたロバート・ワイアット・トリビュート作品。
監督は、ダニエル・イヴェネク。
すべていい曲であり、すばらしい演奏である。
しかし、ジャズに憧れたワイアットに、そのワイアットに憧れたジャズメンがトリュビュートする、という図式を思うとなかなか解釈が難しい。
元曲は間違いなく「いい」ので、ここでのアレンジがどれだけ「よさ」に貢献しているのか分からない。
元々ジャジーな作品が主なので、さらに分かりにくい。
それでも、ヴォーカルを中心にさまざまな雰囲気を自然に、なおかつ整った味わいで作り上げているのは確かであり、管楽器も弦楽器も鍵盤楽器もリズム・セクションもいい音で的確にその雰囲気作りに参加している。
その雰囲気とは、ノスタルジックでプライヴェートな暖かみやほのかな哀感であり、モダン・ジャズのベースにあるものと共通している。
一般に「憧れ」の的は自分の外側にあるものであり「憧れ」の的と同一化することは不可能である。
また、「憧れ」の的と同一化すること自体は憧れのような切望ではない。
「憧れ」はいわば求めながらも求めきれないものであり、その熱に浮かされたまま放浪し続けるのが人生ということになる。
放浪の中で生業を身につけ、その生業をもって「憧れ」と再会したときに、それについて、思うだけではない何か自分にできることがないかを改めて考える。
音楽家は「なぞる」という方法で「憧れ」にできる限り寄り添って満足を得るのだろう。
ファンとしては、ワイアットの声が聴けるだけで満足である。
CD 二枚組で二枚目は 4 曲入りのボーナス・ディスク。
「The Song」(7:06)
「Alifib」(4:37)
「Just As You Are」(5:00)
「O Caroline」(7:21)
「Kew Rhone」(6:24)
「Shipbuilding」(3:58)
「Line」(1:06)
「Alliance」(4:20)
「Vandalusia」(5:16)
「Del Mondo」(4:54)
「Te Recuerdo Amanda」(5:14)
「P L A」(4:46)
「Gegenstand」(7:30)
「Rangers In The Night」(4:18)
「Just As You Are」(5:03)
(BEE 030)
Olivier Benoit | director, guitar | Bruno Chevillon | double bass, electric bass |
Jean Dousteyssier | clarinet | Alexandra Grimal | tenor & soprano sax |
Hugues Mayot | alto sax | Fidel Fourneyron | trombone, tuba |
Fabrice Martinez | trumpet, flugelhorn | Theo Ceccaldi | violin, viola |
Sophie Angel | piano | Paul Brousseau | Fender Rhodes, bass synthesizer, effects |
Eric Echampard | drums |
2014 年発表のアルバム「Europa Paris」。
内容は、管弦楽器をフィーチュアしたアグレッシヴなフリー系ジャズロック。
強圧的にして眩暈を起こさせる変拍子リフの上で身悶えするように狂おしいソロの応酬が繰り広げられる。
パワフルにしてしなやかな集団即興はもちろん、エアポケットのようなアンビエント・ミュージックやもはやハードロックといっても的外れでない展開もある。
ジャズ・ビッグバンドではあるが、少人数編成の分だけ各パートが明確に聴こえてドラムス・ビートも相対的に強まるので、ロック・バンド的なタイトな迫力がある。
そして弦楽器やピアノをフィーチュアする場面でのクラシック、現代音楽的な展開も堂々としている。
哀愁ど真ん中を突き抜けるトランペットや空を切り裂くようなヴァイオリンのプレイに解散直前の 70 年代 KING CRIMSONへの連想が止まない。
ささくれ立ったローズ・ピアノや金属的な硬度のベース・ラインなども、往年のプログレ、ジャズロックへのオマージュに思えてならない。
「Paris II」8 曲目の薄暗い郷愁とサイケデリックな幻想はプログレ・ファンの胸に突き刺さると思う。
「Paris II」最終曲は「地獄のフリージャズ」でこちらも手応えあり。
アヴァンギャルドで破格な作品や逸脱調のドシャメシャな展開は CD#2 に顕著。
「Paris I」から「Paris IV」までの四部構成であり、ボーナス・トラック扱いで「Paris V」と「Paris VI」が追加されている。
監督は、オリビエ・ベノワ。
CD 二枚組。
ロック・ファン、プログレ・ファンにはお薦めです。
(ONJAZZ RECORDS 424444)
Olivier Benoit | director, guitar | Bruno Chevillon | double bass, electric bass |
Jean Dousteyssier | clarinet | Alexandra Grimal | tenor sax |
Hugues Mayot | alto sax | Fidel Fourneyron | trombone |
Fabrice Martinez | trumpet | Theo Ceccaldi | violin |
Sophie Angel | piano | Paul Brousseau | Fender Rhodes, bass synthesizer, effects |
Eric Echampard | drums |
2015 年発表のアルバム「Europa Berlin」。
内容は、ポスト・フリー、現代音楽的ながらもノスタルジックなトーンにえもいわれぬロマンを感じさせる変拍子ビッグ・バンド・ジャズロック。
アグレッシヴに熱く迫る瞬間よりも、助走部分というか、シグナルのように鳴り続けるリフとともに物語をささやくうちに思いに胸が裂けそうになって高まってゆく様子に味わいがある。
重層的なアンサンブルからは、薄霧のように、胸を打つ切実さと果たせぬ思いの名残が立ち昇る。
せめぎ合う管楽器群が深い哀しみをにじませると、そのイメージは、KING CRIMSON でいえばウェットンの名作「Starless」に近づく。
弦楽器を軸にした現代音楽風の演奏の無機的で冷徹な響きにすら、そこはかとない哀愁や膨れ上がる涙のような熱さがにじむように感じる。
往年の OGUN レーベルのエルトン・ディーンらのフリージャズやキース・ティペット・グループを思わせる熱くアッパーなグルーヴにすらも、空しさをかみ締めるような響きがにじむ。
その一方で、ロバート・アルドリッチ辺りの映画やフィルム・ノワールを連想させる 50 年代モダン・ジャズらしいサスペンスフルな展開もあり。
ヴァイオリン、ピアノ、ベース、ドラムスらの見せ場も巧みに作られている。
エレクトリックな音響の処理はいちいちカッコいい。
2 曲目「L'Effacement Des Traces」、7曲目「Revolution」(ヴェッセルトフトか!)最終曲「Persistance De L'oubli- part III」は傑作。
監督は、オリビエ・ベノワ。
ボーナス・トラック 1 曲つきであり、内容は、エレクトリック・キーボードを主役にしたコンテンポラリーなビッグ・バンド・ジャズロック。カッコいいです。
前作に続き、プログレ・ファン、KING CRIMSON、SOFT MACHINE ファンには絶対のお薦めです。
(ONJAZZ RECORDS 434444)
Jean Dousteyssier | clarinet | Alexandra Grimal | tenor & soprano sax |
Hugues Mayot | tenor sax | Fidel Fourneyron | trombone |
Fabrice Martinez | trumpet, flugel horn, piccolo | Theo Ceccaldi | violin |
Sophie Angel | piano | Paul Brousseau | Fender Rhodes, effects |
Didier Aschour | guitar | Sylvain Daniel | bass |
Olivier Benoit | director, guitar | Bruno Chevillon | double bass, electric bass |
Eric Echampard | drums |
2016 年発表のアルバム「Europa Rome」。
内容は、エネルギッシュでアーティスティックなエレクトリック・ビッグバンド・ジャズロック。
長年にわたって他方を意識し続けた結果、傍らに相手の存在が不可欠になった二つのジャンル、ジャズと現代音楽を出会わせる試みである。(というようなことが書いてある)
本アルバムでは、ベンジャミン・ドゥ・ラ・フエンテとアンドレア・アゴスティーニという二人の作曲家の作品を取り上げている。
前半、ラ・フエンテの作品「In Vino Veritas」は、都市の情景を幻想夢の中に配置し直したようなハードボイルド・ジャズロック。
アグレッシヴにグラマラスに煮えたぎるへヴィ・ジャズロックとスペイシーでインダストリアルな音響作品が並置される。
一方は、抜群の運動性と若干の変態っぽさを誇る管楽器軍によるマッチョで遠慮なしのごり押しである。
新加入のシルヴァイン・ダニエルのディスーション・ベースがその轟音フレーズで強烈な存在感を放つ。
歪んだフェンダー・ローズとブラス・セクションの絡みは否が応でもエレクトリック・ファンク時代のマイルス・ディヴィス・バンドを思わせる。
また、もう一方のモノローグとノイズの散らされた東欧現代映画風の無機的で絶望的な展開には、コンクリートの塊のようなリアルにざらついた手触りあるとともに KING CRIMSON 直系の破綻すれすれのインプロヴィゼーションの危うさの魅力もあり。
後半、アゴスティーニの作品「Rome: A Tone Poem Of Sorts」は、きわめて現代音楽的な断章の連続。
信号、ノイズ、衝撃音など音の素材を無駄なく配した緊張感あふれる作品や、そこからの落差がすさまじい、衝動的で放埓、アナーキーなバンド・アンサンブルによるパンク・ジャズもあり。
弦楽器の引き攣るような喚きに KING CRIMSON への連想が湧き出す。
監督は、オリビエ・ベノワ。
攻撃的で挑発的なジャズロックなので、キース・ティペットのビッグバンド・ジャズ作品「Metropolis」のファンには絶対のお薦め。
(ONJAZZ RECORDS 444444)