イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「RACCOMANDATA RICEVUTA DI RITORNO」。 72 年結成。74 年解散。 作品は一枚。 解散後、ヴォーカリストのルチアノ・レゴーニとギタリストのナンニ・チヴィテニャは SAMADHI を結成、ドラマーのフランチェスコ・フランチーカは PROCESSION に加入。 2009 年レゴリ、チヴィテニャを中心に再編し、多数のゲストともに新作「IL Pittore Volante」発表。
Luciano Regoli | vocals, acoustic guitar |
Nanni Civitenga | acoustic & electric & 12 string guitar |
Stefano Piermarioli | piano, Hammond C 3 organ, celeste, piano chiedate? |
Francesco Froggio Francica | drums, percussions |
Manlio Zacchia | bass, contrabass |
Damaso Grassi | tenor sax, flute |
Martina Comin | word |
72 年発表のアルバム「Per...Un Mondo Di Cristallo」。
邦題は「水晶の世界..へ」。
サウンドは、現代音楽やフォーク、フリー・ジャズの影響を強く感じさせる狂的でアヴァンギャルドなヘヴィ・ロック。
イタリアン・ロックらしく牧歌的なメロディを軸にしながらも、アコースティック・ギターとフルートの妖艶なデュオ、ピアノとサックスによるフリーキーなアンサンブル、忙しないユニゾンや強烈なアクセントをもつキメを多用するところなど、OSANNA、初期 KING CRIMSON の系譜とみて間違いない。
(SEMIRAMIS と同じ多彩な音遣いと芸風で演奏レベルが高い、という見方もできる)
ギター、ピアノ、フルート、コントラバスなどアコースティックで素朴な音が大きな割合を占めるにもかかわらず、大きな振幅で目まぐるしく変化する曲調のために、素朴さよりも耽美で過激な印象が先立つ。
アルペジオにしてもベース・ラインにしても、反復の果てに突如としてギラギラと血走るような表情を見せる。
伸びやかなハイトーン・ヴォイスによる狂おしいハーモニーも特徴的だ。
邪悪系 HR という意匠とオーセンティックなフォーク・ロックの間を揺れ動いているといえばイメージが湧くかもしれない。
奔放なソロと爆発力のあるアンサンブルが、現代音楽風の無調性や変則拍子などを駆使しながら次々とグロテスクなシーンを描いてゆく。
しかし、凄まじくアンバランスな場面をつないでゆくのは意外なまでに安定した演奏であり、トータル・イメージをしっかりと提示できている。
作曲はチヴィテニャ、作詞は専任のマルティナ・コミンによる。
OSANNA の「Palepoli」以前にこういう作品があったことは、非常に興味深い。
FREE のライヴ・アルバムとよく似たジャケットです。
1 曲目「Nulla(虚無)」(1:03)チャーチ・オルガンがおごそかに響き渡る、悲劇の色濃いイントロダクションである。
2 曲目「Su Una Rupe(崖っぷち)」(5:13)
沸騰するように激しいトゥッティと熱に犯されたようなヴォーカルが描く狂気とアコースティックで夢想的な世界が交錯するアヴァンギャルド・へヴィ・ロック。
奇怪な物語が、メロディアスなフルートとアコースティック・ギターのセンチメンタルなアルペジオが生むロマンティックなイメージと、邪教的でワイルドなイメージの落差をモーメンタムにして綴られる。
遮二無二振りほどくような変化の「激しさ」が特徴的だ。
そして、過激さの果てを越えた独特のナンセンスさ、逸脱感もある。
フルートをフィーチュア。
CERVELLO の唯一作との共通性を感じる。
3 曲目「Il Mondo Cade(Su DI Me)(世界が私に落ちてくる)」(6:48)
邪神を呼び覚ましその乱舞を崇める、スリリングかつ神秘的なヘヴィ・チューン。
弦楽による大仰なクラシカル調と切り刻み攻め立てるトゥッティが音色とテンポの両方で極端にコントラストする。
狂的にせわしなく、邪悪である。
序章と終章は、フルートがさえずる素朴ながらもダンサブルで妖しいお囃子であり、本編との落差がこれまた大きい。
ここでは、カントリー・タッチのアコースティック 12 弦ギターのかき鳴らしと受けに回ったコントラバスの重低轟音が印象的。
ヴォーカルはまたも熱い。
中盤は、ベースとピアノと中性的なヴォカリーズによる禍々しいサテュロスの律動と乱舞。
千切れて舞うスキャットのせいで IL BALLETTO DI BRONZO に通じるイメージもあり。
演奏、構成ともに力作。
4 曲目「Nel Mio Quartiere(うちの近所)」(3:53)
下品なテナー・サックスのブロウと乱調ピアノをフィーチュアしたブルージーで怪しいモダン・ジャズ・コンボ。
演奏そのものはアグレッシヴであり、熱気で汗が飛び散る。
ジャズとして健闘するピアノを尻目に、ファズ・ギターは場違いであることを逆手にとってアクセントとしてはたらく。
ベースもダブルベースであり、ドラムスもジャズ。
ギターだけがハードロックである。
本職のジャズ・メンと比べると明らかに力不足だが、不器用な演奏に味がある。
インストゥルメンタル。
イメージは、メル・コリンズのいた KING CRIMSON です。
5 曲目「L'ombra(木陰)」(3:38)
奇数拍子、変拍子のリフがドライヴする狂騒的な演奏から不気味な弾き語りへと雪崩れ込むイタリア特有の不可逆ロック。
現代音楽風のピアノのざわめきをオルガンの轟音が貫く衝撃的なイントロ、一気に走り出すアンサンブルは、ピアノのリードで奇怪に捻じ曲がる反復パターンとエキセントリックなオブリガートを駆使し、KING CRIMSON 風のヘヴィネスをアピールする。
伸びやかなベル・カントと暴力的な演奏がきついコントラストをなしつつ、じつは呪術的な、狂騒的な高揚という共通点に収束してゆく。
前半は呪術的なエネルギーを不気味ながらも吐き出してゆくが、対照的に、後半は、その狂気のエネルギーを内に向けてためこむ一人芝居風のフォーク・ソングへと変化してしまう。
唐突な笑い声が不気味すぎる。
きわめて躁鬱的な展開ながら、この脈絡のなさこそが、このグループの作風なのでしょう。
6 曲目「Un Palco Di Marionette(あやつり人形の舞台)」(10:06)
過激に展開する邪悪なへヴィ・アコースティック・プログレ大作。
フルートがささやく牧歌的でファンタジックな導入部から、ジャジーなメイン・ヴォーカル・パートを経て、強引で執拗なヘヴィ・プログレへと変転してゆく。
前半はしたたるようなピアノとフルートが印象的。
ここまでは展開に多少の脈絡が感じられるが、謎めいたブレイクを経た不気味なモノローグ、チェンバロ・ソロのブリッジ辺りからストーリーは怪しく捻じれてゆく。
呪術的なリフを熱狂的にたたみかけるトゥッティが繰り返され、殴打のようなキメで熱気をたっぷり注ぎ込む。
熱気の源泉はパワフルなアコースティック・ギターのコード・ストローク、そしてトーキング・フルート。
最後は荒々しく下品なエレキギターのリフを叩きつけられてハードロックへと進化し、下品なサックスがいななき、勇ましくも荒々しい行進曲にて止めを刺す。
かなり過激なへヴィ・ロックなのに、サウンドはアコースティック・ギター、フルート、ピアノなどアコースティック中心なのだから驚きだ。
スイスの CIRCUS と共通するセンスを感じる。
7 曲目「Sogno Di Cristallo(水晶の夢)」(6:33)
STRAWBS 風のメロディアスなフォークロックを現代クラシックでぶった切るアコースティック・ロック。
イタリアン・ロックらしいポップな変拍子フォーク・ソングから、弦楽をフィーチュアした重苦しい間奏を経て、ゆったりとしたフォーク・ソングへと回帰する。
ストリングスを用いた演奏はロマンチックなものが多いが、ここではまったく違う効果を目指している。
不協和音の響きや重いリフ、怪しいピチカートを用いて、あたかも不気味な怪物がぐるぐるととぐろを巻く演奏なのだ。
ジャズ的なリズムと重苦しい弦楽の取り合わせもユニークである。
テープ処理で無理やり引き裂かれる長い間奏部が奇天烈なイメージを強調する分、エンディングのヴォーカル・パート(奇妙な電子ノイズはつきまとうが)に救済感がある。
ピアノは要所で存在感あり。
アコースティック・ギター、ピアノ、フルートによるフォークロックを凶悪に歪曲したインストゥルメンタルで切り刻むヘヴィ・ロック。
コントラストのきつい動と静を激しくゆきかう演奏は、いかにもイタリアものらしい。
サックスやピアノにはフリー・ジャズの影響も顕著である。
ヘヴィなユニゾン・リフや 8 分の 6 拍子によるたたみかけるようなフレーズは、英国ジャズロック、より特定的には初期 KING CRIMSON の影響だろうか。ただし、演奏そのものが破天荒なわりには、曲の展開には奔放ながらも流れと構成が感じられる。
おそらくしっかりと作曲、編曲されたものなのだろう。
逆に、同タイプの OSANNA と比べるとやや小粒でおとなしい感じがする理由は、この計算され具合によると思う。
アヴァンギャルドな展開も確かにあるが、先読み不能のぶっ飛んだスケールの大きさよりも、きっちりしたまとまりを感じさせる作風である。
フリー・ジャズとハードロックそしてイタリアン・フォークを突きまぜ、叙情と暴力性そしてアカデミックなセンスを同居させた、いかにもこの時代らしいプログレッシヴな内容である。
この調子ならライヴは相当面白かったでしょう。
(LPX 15 / WARNER FONIT 3984 28186-2)