イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「PROCESSION」。 72 年トリノにて結成。 作品は二枚。 グループ解散後、ヴォーカルのジャンフランコ・ガッツァは ARTI E MESTIERI へ加入。 ハードロックからサックスをフィーチュアしたジャジーで叙情的なサウンドへと変遷する。 薄味の OSANNA-UNO-CERVELLO。
Gianfranco Gaza | vocals, harmonica |
Roby Munciguerra | electric & 12 string acoustic guitars |
Marcello Capra | electric & acoustic 6 string guitars |
Angelo Girardi | bass, electric mandolin |
Giancarlo Capello | drums, percussion |
guest: | |
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Luigi Filippo | mellotron |
72 年発表の第一作「Frontiera」。
内容は、中性的なハイトーン・ヴォイスをフィーチュアしたギター・オリエンティッドなハードロック。
比較的シンプルなリフを中心に、ヴォーカルとギター、ベース、ドラムスが互いに他を挑発しつつも一体化して急激な展開を見せ、その結果ワイルドかつ怪しい調子をうまく作り上げている。
怪しさは、ヴォーカリストの呪術めいた歌唱にもよると思う。
スピード感とスリルもさることながら、2 曲目冒頭の野蛮な音が奏でるクラシカルなアンサンブルのように独特の曲がりくねった感じが「プログレ」の範囲で語られる理由だろう。
この独特な歪曲感の源の一つはへヴィなパートに加えられたアコースティック・ギター中心の叙情パートである。
フォーク・タッチの弾き語りのたおやかな美感と素朴さの魅力はイタリアン・ロックの大きな魅力の一つだが、本作品では牧歌田園風味のみならず短調によるクラシカルで内省的な表現も交えている。
特に、A 面後半を中心にハードロックという表現がはばかられるほど印象は繊細である。
また、ギター中心のサウンドながらもブルーズ・ロック色が希薄で、クラシカルかつフォーキーな味わいが主であるところも特徴的である。
一方、エレキ・ギターのプレイがいわゆるアドリヴとリフの範囲にとどまっていて意外性のある音が出ていない。
ハードロックの様式にはうまく収まっているのかもしれないが、素っ頓狂な勢いや底抜けの幻想性を期待しているイタリアン・ロックのリスナーにはやや物足りないかもしれない。
巷では、B 面トップの大作や 8 曲目にギターを前面に出したヘヴィメタルの元祖のような強烈なパート(特に、8 曲目は KING CRIMSON にジミヘンが入ったような強烈さ )があるために、「一作目はハードロック」というイメージがあるようだ。
しかし、そういった作品ですら、中盤にはトラッド・フォーク調のうつろな演奏が、はさみこまれている。
また、二作目ほどではないにしろ、メロトロンやフルート(クレジットがないのでメロトロンかもしれない)も効果的に用いられている。
英伊の違いはあるものの、アコースティックなトラッド色もあるハードロックということでは、LED ZEPPELIN を思い浮かべてもらうといいかもしれない。
最終曲のシンプルなブギーが雰囲気を台無しにするかと危ぶんだが、奇妙なエンディングが意外なほど不思議な後味を残す。
OSANNA 分派で卓越したヴォーカリストを擁した CITTA FRONTALE の唯一作にも比肩する佳作。
ヴォーカルはイタリア語。
「Ancora Una Notte」(5:24)中性的なハイトーン・ヴォイスと饒舌なギターによる呪術めいたミドルテンポの作品。ヴォーカルとギターの呼応がおもしろい。OSANNA ばりのヘヴィなインサーションもあり。
「Uomini E Illusioni」(2:42)メタリックでノイジーなギター・リフ一発の快速ハードロック。二つのギターがそれぞれに活躍する。
「Citta Grande」(5:15)ポップ・センスを垣間見せるセンチメンタルなバラード。
「Incontro」(2:43)CITTA FRONTALE を思わせる溌剌たるアコースティック・ロック。
「Anche Io Sono Un Uomo」(3:59)前曲をイントロにするかのような苦悩のバラード。メロトロン高鳴る。
「Un Mondo Di Liberta」(8:41)ノイジーに狂乱するギターとともに突進する怪作。へヴィなリフや攻撃的なアコースティック・ギターのプレイなど、きわめて OSANNA 的。暴力的で毒々しい。中盤には白昼夢のようなおだやかなパートもあり。
「Solo 1.」(3:29)ブギーがいつの間にか幻想的な世界へと変化する。本アルバムを象徴するような内容だ。
「Un'ombra Che Vaga」(5:09)暴力的なギターの嵐がおだやかな牧歌調に変化する。(つまり CRIMSON から YES に変身)
前半のの歪んだサウンドのストラトキャスターによるコード・カッティングがすさまじい。極端過ぎる落差、二重人格的。
「Solo 2.」(2:10)快調なブギーからよくわからない結末へ。
(DZSLH 55131 / VM 036)
Gianfranco Gaza | vocals |
Roby Munciguerra | guitar |
Maurizio Gianotti | sax, flute |
Paolo D'Angelo | bass |
Francesco Froggio Francica | percussion |
guest: | |
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Ettore Vigo | electric piano (DELIRIUM) |
Silvana Aliotta | vocals (CIRCUS 2000) |
Franco Fernandez | mellotron, electric piano |
74 年発表の第二作「Fiaba(御伽噺)」。
ヴォーカル、リード・ギター以外はメンバーを一新。
フルートやサックスなど管楽器をフィーチュアした内容は、ハードロックを超えた「発展形」というべきオリジナルな一種の「アコースティック・ロック」である。
モダンな HR/HM にも通じる中性的ハイトーン・ヴォイス(イタリア語だが、イタリアン・ロックには珍しく、「イタリアン」であることよりも「ロック」らしさをアピールできる逸材である)、テクニカルなエレクトリック・ギター(ジミヘン流の荒々しいギターが主流のイタリアン・ロックにおいては、別格といえる正統的でスタイリッシュなもの)という主役はそのままであり、スピード感やワイルドなアタックなど、ロックとしての基本的なカッコよさという点は軽々クリアしている。
にもかかわらず、管楽器を活かしたジャジーなタッチとパストラルでアコースティックなフォーク風味が勝っていて、その上に、メロトロン・ストリングスによる悠然とシンフォニックな演出が施されている。
すべての曲でアコースティック・ギターの音が底流のように作品を支えているのが印象的だ。
つまり、弾き語りの素朴な力強さ、エレクトリック・サウンドの幻想性、モダン・ジャズのなめらかな安定感など、芸術的で、ありとあらゆるカッコいい音をかき集めた内容であり、まさにプログレッシヴ・ロックの醍醐味を体現したサウンドなのだ。
この魅力の基調には、多くの他のイタリアのグループと同じく、アコースティックな響きを大切にした「歌」がある。
金切り声が似合うハイトーンのヴォーカリストが、HM チューンではなく、フォーキーでパストラルな作品で伸びやかな歌唱を披露することが、まったく意外に感じられず、むしろ、ごく自然に聴こえるのだ。
この方向への深化というのは、英国ロックにはない、イタリア独自のものだと思える。
そして、優しげだがセンチメンタル過ぎない、やや乾いたイメージのリリシズムは、アメリカン・ロックにさえ通じるような気がする。
フルートにもサックスにも、アコースティック・ギターの丹念なストロークにも、すべてにこのアコースティックな「歌」がある。
こういったサウンドを持った同様の編成のグループでは、毒気こそ異なるが、OSANNA が思い浮かぶし、4 曲目のオープニング、アコースティック・ギターのアルペジオに多重録音されたフルートが渦を巻く演奏のように、CERVELLO を思い出させる神秘性もある。
これらのグループのアシッドな作風を、よりなめらかで、穏かで、ソフィスティケートした感じといえばいいだろう。
過剰な演出はなく、ジャジーなアクセントを効かせたテンポのいいフォーク風ロックといっってしまっていい気もする。
また、ソウル・ミュージック風の表情を見せるところも、イタリアン・ロックの中ではユニークではないだろうか。
なお、メンバーに加え 三人のゲストを迎えている。
3 曲目でエレピを演奏するエットーレ・ヴィゴは、DELIRIUM から、スキャットを聴かせるシルヴァーナ・アリオッタは、CIRCUS 2000 から、3、6 曲目でエレピとメロトロンを演奏するフランコ・フェルナンデズは、セッション・ミュージシャンである。
さらに、ドラムスのフランチェスコ・フランチッカは、RACCOMANDATA RICEVUTA RITORNO からの移籍組。
フランチッカは、イタリアン・ロックらしからぬ切れのいいドラミングを見せている。
全曲の作詞にクレジットされているマリナ・コミンも、おそらく同グループのアルバムの作詞と同一人物だろう。
ナチュラルで安定感のある演奏と優しげなメロディ・ラインに好感をもてる音楽である。
白眉は、エレクトリックな幻想美をたたえる「Notturno」。
フルートもたっぷりフィーチュアされている。
FONIT CETRA レーベル。
「Uomini Di Vento(風の男たち)」(3:57)8 分の 6 拍子によるパーカッシヴなハードロック。
爽やかめの田園風味と熱気むんむんのクラブが合体したような作風である。
つまり、アグレッシヴに攻め立てるハードロック・ギター(スライドも多用)とヴィヴァルディのようにクラシカルなフルートのコントラスト、ジャジーなサックスのアドリヴなど大胆に展開する。
曲を支える止むことないビートは、アコースティック・ギターのストロークが刻んでいる。
「Un Mondo Sprecato(浪費された世界)」(4:40)
イタリア語が映えるメランコリックなバラードを酩酊サイケなサウンドで縁取った作品。
エレクトリック・サックスとギターによるユニゾンは、サウンドこそ毒々しいが、空しさをはらんで朗々と歌う。
ギター・ソロのリバーヴに驚愕。
細やかなベースとともに走るエレクトリック・サックス・ソロはややコワれ気味。
サックス、短調、アコースティック・ギターのアルペジオ、機敏に動くベース・ライン、高まるメロトロン・ストリングスなど、初期 KING CRIMSON に通じる暴力的かつ夢想的な美学も。
劇的だ。
「C'era Una Volta(チャンスは一度)」(8:10)
ラウンジ・ミュージック風味のあるジャジーでサイケなフォークロック。
序盤は、サックスのアドリヴがリードする 4 ビートのジャズ・コンボ。
アコースティック・ギターのストロークがただのジャズにとどまらせない魔法を放つ。
中盤、アップテンポでアーシーなフォークロックへと変化し(ウェストコースト風のギターのオブリガートもいい)、夢想的なブリッジからは妖精が舞うファンタジーの世界へと入ってゆく。
ヴァイブを思わせるエレクトリック・ピアノの神秘的な演出も効く。
エンディングではリザ・ストライクスばりのゴスペル風スキャットやストリングスが波打つように高まって壮大なイメージを提示する。
「Notturno(夜想曲)」(8:08)
幻想的なサイケデリック・フォークロック作品。
切ないギターのアルペジオにフルートやオルガン、ベースらが四方八方から折り重なる。
エレキギターによる滴るような間奏もいい。
現代の水準からすればプリミティヴなはずの電気音響効果が、みごとに夢幻世界のイメージを作り上げている。
驚きだ。
中盤、大胆にエフェクトしたエレクトリック・サックスが加わって一気にテンションが上がり、緊密な演奏となる。
CERVELLO の唯一作に通じるスケールの大きな作風であり、幻想美の際立つ傑作である。
最上のブリティッシュ・ロックをイタリアの息吹で仕上げたような作品だ。
「Il Volo Della Paura(恐怖の飛行)」(4:53)
パストラルな印象の弾き語りのど真ん中でギトギトのエレクトリック・サックスが炸裂するフォークロック。
中盤、エレキギターのさりげなくも派手なオブリガートもいい。
70 年代の音である。
リズム・セクションは相当なテクニシャンのようなので、リミックスした音が聴いてみたい。
「Fiaba(御伽噺)」(5:26)
フルートを目いっぱいフィーチュアしたみずみずしいフォークロック。
リズム・セクションはここでもよく跳ねて、小気味よさを十分に打ち出している。
メロディ・ラインに浮かび上がるのどかな田園風の趣と、タイトで技巧的なアンサンブルが絶妙のマッチング。
シンフォニックな広がりと削ぎ落としたように締まった演奏がバランスしたスタイルは、いわば、優しげな IL VOLO です。
フルートは華やかにさえずって大活躍。
(LPQ 09081 / CDM 2032)