デンマークのプログレッシヴ・ロック・グループ「SECRET OYSTER」。 72 年 BURING RED IVANHOE、CORONARIAS DAN、HURDY GURDY のメンバーで結成。 キーボード、サックスをフィーチュアしたジャズロック。作品は再結成ライヴを含めて五枚。 2020 年、76 年収録のライヴ音源発掘さる。
Kenneth Knudsen | electric piano |
Karsten Vogel | soprano & alto sax, organ |
Claus Boling | guitars |
Mats Vinding | bass |
Bo Thrige Andersen | drums |
73 年発表の第一作「Secret Oyster」。
本国以外では「Furtive Pearl」という名前で発表された。
内容は、性急にしてけたたましいハードロック寄りのジャズロック。
技巧はあるがいろいろ考えるよりも一気のノリでテンション高くひた走ろうと決めたような演奏である。
ギタリストが作曲を手がける A 面では爆発力のあるワウワウ・ギター、ドラムスが強引に攻め立てて突き進み、ささくれだったエレクトリック・ピアノとワイルドなサックスが受けて立つ。
70 年代初期なだけに、ためらいなくオルガンが高鳴る瞬間もある。
凶暴なだけではなく、独特のルーズな感じが特徴か。
また、ヘヴィな音が暴れる中に、垢抜けなさをユーモアにすりかえたようなユニークな表現が現れる辺りが、只者ではない。
前身グループの経験を目一杯活かしているに違いない。
またサキソフォニスト、キーボーディストが作曲を手がける B 面では、ベースが刻む変拍子リフの上でディレイを駆使したエレピが波状攻撃をしかけ、ソプラノが絶叫する SOFT MACHINE 直系の音を披露している。
また、ギターが余裕のファンキーさでリフを刻むと ISOTOPE に近いイメージにもなる。
LED ZEPPELIN ばりのパワフルなドラム・ソロまで叩き込んだ、一体感あふれる豪快な作品である。
ハードロックとジャズロックの中間でハードロック寄りというスタイルが新鮮。
たった三日で録音されたにもかかわらず独自の世界が確立している。
プロデュースはグループ。
全曲インストゥルメンタル。
「Dampexpressen」(4:24)
「Fire & Water」(5:34)
「Vive La Quelle ?」(8:50)
「Blazing Laze」(4:54)
「Public Oyster」(10:46)
「Mis(s) Fortune」(1:28)
「Ova-X」(4:56)
(CBS 65769 / PILPS-9003)
Kenneth Knudsen | electric piano, moog | Karsten Vogel | soprano & alto sax, organ |
Claus Boling | guitars | Jess Staehr | bass |
Ole Streenberg | drums, percussion | ||
guest: | |||
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Finn Ziegler | violin | Hans Nielsen | violin |
Bjarne Boie Rasmussen | viola | Erling Christensen | cello |
Palle Mikkelborg | trumpet |
74 年発表の第二作「Sea Son」。
リズム・セクションがメンバー交代。
内容は、ブルージーなハードロック・マインドを封じ込めた、ワイルドかつ叙情的なジャズロックの名品である。
ハードロック調ながらも、細やかなパッセージを快調にぶっ飛ばすワウワウ・ギターと能天気さと卓越したスキルが一つになったリズム・セクションによるアンサンブルが奇跡的なグルーヴを生んでいる。
荒々しさ極まってどうしようもない切なさが噴出す瞬間に、泣き崩れずに凛と演奏を支えるのは、端正なキーボードである。
ストリングスなどクラシカルなアクセントの効きもいい。
また、反復されるリフによるミニマル・ミュージック的な幻惑性は SOFT MACHINE と共通する。
FOCUS と共通するユーロ・ロックらしいロマンチシズムもあり、また、ラリー・コリエルの ELEVENTH HOUSE を、品よくそして、人懐こくしたような演奏にも思える。
それぞれに重量感のある多彩な曲調を楽しめる作品である。
個人的には、こういう音は「フュージョン」ではなく、ハードロック寄りのジャズロックと思っている。
全曲インストゥルメンタル。
「デンマークのマイルス・デイヴィス」パレ・ミケルボルグがゲスト参加、安っぽいのにものすごい切れ味のフレーズを吹き飛ばす。そして、弦楽アレンジも担当。
「Oysterjungle」(3:01)硬めの弾力のある豪快な作品。
ファンタジックな広がりを持たせるシンセサイザー、そしてストリングス・カルテットを交えたリリカルな表現がいい。
「Mind Movie」(9:16)ブルーズ・フィーリングあふれる屈指の名曲。
この哀愁は、LED ZEPPELIN や FOCUS と共通する。
テリー・キャスばりのワウ・ギター・ソロが縦横無尽に駆け巡り、鋭利なリズムと端正なピアノが支えるという奇跡的な演奏である。サイケっぽい「終わらなさ」もまたよし。傑作。
「Pajamamafia」(6:12)
前曲の余韻のような幻惑的な変拍子アルペジオのイントロダクションを経て、一転してタイトに走る RETURN TO FOREVER 調のジャズロック。
エレクトリック・サックスのリードするテーマにどことなく盆踊り風のノリがあり、そう思うと KRAAN にも聴こえてくる。
エレクトリック・ピアノのアドリヴがカッコいい。B 面頭でリプライズ。
「Black Mist」(3:41)BLACK SABBATH 風の変拍子リフによる重量感あるハード・ジャズロック。
シンセサイザーのスペイシーなオブリガートと色気あるサックスが印象的。
ジェフ・ベックの諸作に通じるヘヴィネス、ハイブリッド感など現代的なセンスにあふれる佳作。とにかくカッコいいです。
ISOTOPE もびっくり。
「Painforest」(5:32)1 曲目と同じく弦楽四重奏と競演。中盤までのややシリアスな ECM 調が、本作では、いい感じに異彩を放つ。
ピアノ、エレクトリック・ピアノによる点描的な抑制されたプレイがブルージーなギターを呼び覚ます。
こういう曲がさりげなくアルバムに収まるところがヨーロッパのジャズ、ロックらしさだろう。
「Paella」(8:27)スペイシーなアナログ・シンセサイザーが主役となる硬質で未来的なイメージのジャズロック。
東欧やロシアのグループにありそうな音。容赦のない絨毯爆撃的な演奏である。ミケルボルグもカッコいい。
以下、CD ボーナス・トラック。「Pajamamafia」録音時のアウト・マテリアル。もともと二曲だったものを一つにまとめたようだ。
「Sea Son」(5:25)序奏の部分は 3 曲目とほぼ同じ。
「Alfresco Part I」(5:39)3 曲目 02:10 あたりからのサラセン風のテーマ演奏から始まる。
「Alfresco Part II」(2:07)
(CBS 80489 / LE 1045)
Kenneth Knudsen | piano, electric piano, moog, string synth |
Karsten Vogel | sporano & alto sax, string synth |
Claus Boling | acoustic & electric guitars, sitar |
Jess Staehr | bass |
Ole Streenberg | drums, percussion, harmonica |
75 年発表の第三作「Astarte」。
本国では「Vindunderlige kaelling」の名前で発表された、同名の前衛バレエの劇伴音楽。
内容は、キーボード、サックスによる繊細な表現が冴え渡るジャズロック。
例えるならば、初期 WEATHER REPORT をうんとファンタジックにしたような、KING CRIMSON の演じるフュージョンのような、または中期 CAMEL のような音である。
ギターとサックスがきわめて英国プログレ的なニュアンスをもつ一方、キーボードが入ると格段にジャジーになる。
全体として、技巧はもちろん、表現力という意味でも米国メインストリームと全く遜色ない一線級である。
メロディアスでファンタジックなプレイをじっくりと歌わせてゆくうちに、いつしかそこを軸としてスリリングなアンサンブルへと発展してゆく、その進展の仕方がなんともカッコいい。
躍動するような演奏とともに、優美でクラシカルでプレイも自然に配置されている。
丹念に音色を変えてフレーズを紡ぐシンセサイザーやシタールの存在もユニークだが、何よりも、つかず離れず絶妙の距離感で緊張とも弛緩とも異なる不思議なテンションをキープするアンサンブルの妙が、音楽性の肝だろう。
謎めいた哀しげなパフォーマンスで空間を切り取ってゆくダンサーが目に浮かぶような語り口である。
劇伴ながらも(だからというべきか)音にはイントロからアウトロまで全体を通したストーリーが感じられる。
ブリッジ風のタンゴがいい。
(CBS 81208 / LE 1043)
Claus Boling | acoustic & electric guitars |
Kenneth Knudsen | keyboards |
Jess Staehr | bass |
Ole Streenberg | drums |
Karsten Vogel | sax |
77 年発表の第四作「Straight To The Krankenhaus」。
内容は、テクニックと楽想の両面で「フュージョン」の限界を突破しそうな勢いのあるジャズロック。
メロディアスにしてメランコリック、ファンキーにしてファンタジックという相反しそうなファクターをしなやかにまとめた傑作である。
ファンキーというと通常は汗が飛び散りそうなイメージが浮かぶが、本作のファンキーさは他の要素とも相まって一味違う。
冷ややかなまでに鋭利でクールなのだ。
おそらくこの印象は、主として、研ぎ澄まされたリズムによるタイトなアンサンブルとキーボードの音作りからくるのだろう。
喩えるならば、練習量を十倍に増やして頭の良くなった KRAAN、または、少しバカっぽい FERMATA でしょうか。
また、メロディアスなテーマによる叙情的な表現もみごとだが、そこにおいても、ふくよかなる哀愁や情感とともにどこかニヒルな雰囲気がある。
いわゆるクロスオーヴァー、ジャズロックの文脈から見て特徴的なのは、ガッとユニゾンにまとまってカタルシスといった瞬間がほとんどないことだろう。
キャッチーなテーマを巡って楽器同士が微妙な距離を取って呼応し、ソロを回しつつ緩やかな係り結びを作ってゆく。
いわばヒットするポップ・ミュージック的な作りであり、リードが「ヴォーカル」ではなく「アンサンブル」そのものなのだ。
さて、そういった第一印象から少し進んでプレイとサウンドを味わってみよう。
キーボードはストリングス系シンセサイザーを多用してスペイシーでファンタジックなバック・グラウンドを構築するとともに、アナログ・シンセサイザーを駆使したロビン・ラムレイ風の粘っこいソロを放つ。
エレクトリック・ピアノでもリズミカルで鋭いプレイを放っており、ストーリー・テリングをリードするのは、このキーボードのサウンドとプレイだと思う。
サックスによるフロント・ラインはジャズというにはシンプルで明快、したがってメル・コリンズやデヴィッド・ジャクソンを思い出して正解だ。
なじみやすさという点ではなんら問題はない。
キーボードがクールなだけに、饒舌で「ベタ」で開放的なサックスのプレイがアクセントになっており、意外なほど印象に残る。
ギターはナチュラル・ディストーション・サウンドでわりとラフなアドリヴに決めてゆく。
多めの音数にもかかわらずフレーズがきわめて自然に聴こえる。
あまりこねくり回さずに突っ放すようなところもカッコいい。
ハードロック出身でテクニックの幅を広げてきたのではと想像する。(ワウやコンプレッサの使い方がうまいギタリストは個人的に好み)
そして、リズム・セクションは、変拍子でもキレのあるビートを放っており、爆発的パワーもある。
シンプルなビートにグルーヴをもたせるドラムスの力量はなかなかではないか。
デリケートな歌心を見せながらも素早い変わり身と込み入った動きを平然とこなすところもあるので、常に予測不能のスリルがある。
おまけに薄笑いを浮かべるようなユルいところと濃密なまでに耽美な表現が矛盾なく両立している。
これもまた、マイルス・ディヴィスが創始し、RETURN TO FOREVER や MAHAVISHNU ORCHESTRA が築いた音楽観から一歩進んだ独自の境地なのだろう。
ユーロ・ジャズロックの佳作であり、ハードロックから進化した個性的なフュージョン、ジャズロックの見本の一つである。プロデュースはポール・ブルン。
「Lindance」(1:11)ビリー・コブハムのソロ作品に通じるダイナミックかつスリリング過ぎる序奏。シンセサイザーをフィーチュア。
「Straight To The Krankenhaus」(2:45)キャッチーなファンク・テイストにスピーディでメカニカルなタッチを加味した痛快作。
アッパーなノリとロマンティックなサウンドのすてきなコンビネーションだ。ストリングスの使い方も予想外。PASSPORT がさらに洗練されたらこんな感じか。
「My Second Hand Rose」(4:14)メロディアスで泣きの入った日本のバンドのような作品。
夕日に向かって涙にむせぶサックス。
リズム・セクションがたくましい。
ギターはいかにもハードロック出身者らしいジャズロック・プレイ。
「High Luminant Silver Patters」(5:34)クインシー・ジョーンズかハービー・ハンコック張りのリッチで骨太なジャズロック。
ゴージャスでスペイシーなキーボード・サウンドがいい。
ギターも負けずにがんばる。
リズムのアクセントが一筋縄でなく、ヒップホップ風の妙なノリがある。
「Delveaux」(7:51)憂鬱の淵に沈むもアナーキーな感性が炸裂するエモーショナルなスロー・バラード。
身悶えるようなムーグ・シンセサイザーの絶唱。
ベタだが胸に刺さるサックスの朗誦。
気難しいギターの調べ。
「Stalled Angel」(3:54)泣きのギターとシンセサイザーの咆哮を支えるファンクな弾力とキレに富むリズム・セクション。
スペイシーかつファンキーな豪腕ジャズロックの傑作。
ギターの説得力がすごい。
「Rubber Star」(4:09)サックス、エレクトリック・ピアノのからみ、ギターのアルペジオが誘うスペイシーにして官能的なイメージの作品。
中期の CAMEL に通じる作風だ。
「Traffic & Elephants」(6:10)圧巻の高速クルーズ。スーパー・ジャズ・ボレロ。サックスがリード。
「Leda & The Dog」(5:47)位相系エフェクトのギター・アルペジオとスペイシーなシンセサイザーが綾なす星々の対話。
緊迫感は初期 MAHAVISHNU ORCHESTRA のイメージ。
終盤は熱いインタープレイの応酬となる。
(CBS 81434)