ポルトガルのプログレッシヴ・ロック・グループ「TANTRA」。 75 年結成。 78 年アルバム・デビュー。 作品は再結成含めて五枚。 第二作がようやく CD 化。
Armando Gama | piano, clavichord, Farfisa synthesizer, vocals on 6 |
Àmerico Luis | bass |
Manuel Cardoso | guitars, guitar synth, acoustic guitar, vocals on 1, special effect |
Tó Zé Almeida | drums, percussion, electric pads |
78 年発表のアルバム「Misterios E Maravilhas」。
内容は、よくまとまったアンサンブルによるスペイシーかつファンタジックなシンフォニック・ロック。
GENESIS 風の耽美な演奏に YES の緊張感を持ち込んだようなイメージであり、さらには典型的なジャズロック、フュージョンのテクニカルなプレイも盛り込んでいる。
英国本家ほどではないにせよ、発散し切らず突き抜け切らないところが特徴である。
エレクトリック・ドラムスも用いる手数の多いパワー・ドラマー、終始メロディアスなシンセサイザー、アルペジオのきれいなギターらの芸風は中期 GENESIS に倣っているといっていいだろう。
突っ込み気味に音を打ち込み、弾きまくる重いベースは音はラザフォードでプレイはスクワイア。
そして、コーラスは、YES を範としている。
さざなみのようなピアノとゆったり歌うシンセサイザーのコンビネーションやエフェクトを用いたギターとアコースティック・ギターの弾き分けなど、音質はきわめて豊富だ。
ギターのプレイはワイルドに走ったり 1 曲目のようなリリカルなプレイを演じたり別人のように技と雰囲気を使い分けている。
ややガチャガチャしているものの緩急の変化や多彩な音質でせめぎあうインストゥルメンタル・パートにはいい緊迫感がある。
またメロディアスな作品におけるロマンティックな語り口もいい。
1曲目と 6 曲目のみが、ポルトガル語のヴォーカル入り。
70 年代末ユーロ・シンフォニック・ロックの代表作のひとつ。
「Á Beira Do Fim(Edge Of Oblivion)」(11:01)
芝居がかったヴォーカルをフィーチュアし、急角度で展開する GENESIS 直系のシンフォニック・ロック大作。
油っこいヴォーカル、エフェクトされてにじむギターのアルペジオ、ゆったりと歌い上げるシングル・トーンのシンセサイザーなど早目に出現したポンプ・ロックといった感じ。
基本的な表現が IQ あたりによく似ている。
ゆるゆる歌う演奏が主なため、アップ・テンポの演奏やクラヴィコードやベース、ギターのコード・カッティングのリードするリズミカルな曲調への変化が効果的。
アコースティック・ギターとシンセサイザーのドリーミーなブリッジから哀愁あふれるピアノ・ソロへと進む終盤の演奏もいい。
そして、まろやかでレガートなギターが幕を引く。
スケールの大きい作品である。
「Aventuras De Un Dragão Num Aquário(Adventures Of A Dragon In Aquarium)」(2:09)
アコースティック・ギター・ソロによるクラシカルな小品。(難しそう)
ほのかにラテン色もあり、セゴヴィア-ハケット直系のスタイルである。
「Misterios E Maravilhas(Mysteries And Wonders)」(6:19)
テクニカルかつ情熱的なシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。
ロマンティックにして本格クラシック調のピアノ・ソロから始まり、音数の多いドラムスと攻めまくるベースという強力なリズム・セクションにドライヴされてギター(位相系のエフェクトがいい)とシンセサイザーが虚空を疾走する。
スペイシーかつパーカッシヴな演奏だ。
躍動感と幻想美の拮抗、そしてそこから湧き上がるミステリアスなムードも独特。
そして、RETURN TO FOREVER をなぞるようなラテン風のジャズロック的な演奏へと予想外の展開を見せる。
変拍子による現代音楽的なパートもさりげなく盛り込む。
ドラムスは豪快そのもの。
うるさいくらいに叩きまくる。
「Máquina Da Felicidade(Happiness Machine)」(13:39)
オルゴール、声、雑踏、飛行機のエンジン音など、含みのある SE から幕を開ける悪夢幻想味の濃いインストゥルメンタル大作。
変拍子のパターンなど序盤から一貫してリズム・セクションが目立ち、中盤にはパーカッション・ソロもあり。
うっすらとした叙景、またはラフなセッション風の展開であり、周到な作曲ものではなさそうだ。
それでもイメージは豊かであり、各場面のタイトなプレイを楽しむべきである。
たたみかけるようなベースとシンセサイザーのリードによる、エキゾチックかつ緊張感ある演奏は、EL&P に近い。
後半には悠然としたアンサンブルで助走を整えて、ベースの変拍子リフとシンセサイザーによる呪術めいた演奏へ。
そして終盤はメロディアスなギターと迸るシンセサイザーによるシンフォニックなクライマックスを迎えて、再びジャズロック風のひねりを加えて終わる。
「Variacões Sobre Uma Galaxia(Variation On A Galaxy)」(1:24)
アコースティック・ピアノとパイプ系のシンセサイザーからなる厳かなるデュオ。
壮大な曲想。
「Partir Sempre(Always Departing」(9:29)
リズミカルかつメロディアスなテーマによる GENESIS いや SUPERTRAMP 風の明朗(ロケンロー)系シンフォニック・ロック。
(一番似ているのは DRUID かも知れないが)
リード・ヴォーカルは、1 曲目よりもスウィートな声質が曲調に合っており、技巧的で骨太の演奏とのコントラストもすばらしい。
ギターは、繊細なヴォリューム奏法もスライドもよくし、スティーヴ・ハウとスティーヴ・ハケットのいいところ取りのようなプレイをこなす。
シンプルだが勢いのいいプレイが曲とよくマッチしている。
派手なフィルを入れるドラムスとアタックの強いベースが際立つ快速アンサンブルは、いかにも「A Trick Of The Tail」風だ。
GENESIS や英国ポンプほどは奇天烈にならないところがいいのかもしれない。
ポルトガル語の響きがメローなブラジリアン・ロックを思わせるところもある。
しかし、このケレンみは、やはりプログレ。
(EMI 8E 068 4054 / FGBG 4224.AR)
Pedro Luis | polymoog, minimoog, piano, clavinet, Fender rhodes, mellotron on 2,4 |
Àmerico Luis | bass |
Manuel Cardoso | guitars, guitar synth, acoustic guitar, sitar on 3, vocals |
Tó Zé Almeida | drums, clarinet on 2, tubular bells . marimbas, percussion |
guest: | |
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Tony Moura | guitars, vocals |
Pedro Mestre | keyboards on 6, chorus on 3 |
79 年発表のアルバム「Holocausto」。
内容は、牧歌的なヴォーカルをキーボードを中心とした鋭利でテクニカルなプレイが支える 70 年代終盤らしいシンフォニック・ロック。
歌に漂うほんのりエキゾティックな響きがジャジーだったり典型的プログレ・クリシェだったりする演奏を貫いて個性となっている。
YES を基調に、ギターとドラムスが加熱すると RETURN TO FOREVER のようなラテン風味が生まれて一気にローカル色を強めて ICEBERG のようなハイテンションへと登りつめる。
技巧とロマンチシズムがぶつかりあうことがあるためか、時おりイタリアン・ロックによく見られるコワレた調子にもなる。
背景として統一感を生んでいるのは、いかにも「エレクトロニクス」なシンセサイザー・サウンドによる近未来風の演出だろう。
技巧を駆使するリズム・セクションがドライヴするハードなパートとピアノやギターのヴォイオリン奏法を交えた神秘的/叙情的なパートを濃い目の歌がしっかりと貫いて物語を成す、骨太な作風である。
また、悠然としたシンフォニックな調子とともに AOR 系ポップス、ジャズロックとしてこなれた面もある。
これはリリカルなピアノ、スペイシーなシンセサイザーとともにエレクトリック・ピアノやクラヴィネットによるジャジーなフレーズもあるという、キーボード・サウンドの多彩さが一因だろう。
さらに技巧をアピールするのがドラムス。
ミックスのせいもあるのだろうが、パーカッションも利用して手数多く前面に音が出てくる。
音数のわりにはリズムが揺らぐためアンサンブルが傾いでしまうが、強引に演奏を引っ張るエンジンとしては欠かせぬ存在だろう。
全体にややばたばたしているが濃厚なシンフォニック・ロックとしては前作を凌ぐ内容だろう。
ヴォーカルはポルトガル語。
本作品は、魂の師、マハラジャ・ジ導師に捧げられている。
また、本作品を最後に、グループは音楽志向をニューウェーヴにシフトする。80 年代、プログレ暗黒時代の到来である。
「OM」(8:47)
「Holocausto / Ultimo Raio Do Astro Rei」(10:53)後半は、エキゾティックな音を活かしている。
「Zephyrus」(2:50)シンセサイザーとコラール、怪しげなヴォイスによる MAGMA 風の小品。
「Talisma」(8:44)MAHAVISHNU ORCHESTRA 、後期 RETURN TO FOREVER らの影響下にあるジャズロックにイタリアン・ロックの牧歌調を加味したシンフォニック作品。情熱的ながらも品のあるヴォーカルがなかなかいい。
「Ara」(4:54) イタリアの YES のような作品。強引なフェード・アウトはいかがなものか。
「Π」(7:29) なめらかなフュージョン・タッチの佳作。
キーボードとギターのやりとり、比較的グルーヴィなリズム・セクションなど、珍しく「安定感」を意識させる演奏だ。
神秘的な演出もいい。
(FGBG 4289.AR)