フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「DRAMA」。 90 年結成。ルーアン出身。 2010 年現在、作品は三枚。リーダー格のギタリストは左利き。
Eric AZHAR | guitar |
Jean-Francois DUBOC | bass, fretless bass |
Richad LANGLOIS | keyboards, synthesizer, Hammond organ, piano |
Laurent GUILLOT | drums, percussion |
Jean-Marc LECLERC | percussion, vibes |
96 年発表の第一作「Drama」。
内容は、メロディアスなギターとクラシカルなキーボードが織り成すネオ・プログレッシヴ・ロック・インストゥルメンタル。
細身でサスティンを効かせて歌い上げるギター、打楽器系の音が美しいシンセサイザー、豊かな音色のハモンド・オルガンらが躍動感あるリズムに支えられてエキゾチックな風味のある音楽を奏でている。
特徴的なのは、メロディ・ラインや和声にアフロ・エスニックなタッチがあるところ。
リズム・セクションも太鼓系のドラムスとややラテン・フュージョン・スタイルも見せる力強いベースという布陣で、存在感ある骨太なリズムを打ち出している。
シンセサイザーによる民族楽器(特に管楽器系)調の音もおもしろい。
GENESIS、GONG など往年のプログレへの意識に加えて、ワールド・ミュージック的な、いわばスティーヴ・ハケットやマイク・オールドフィールドに近い感覚ももっているようだ。
変拍子によるテーマはややステレオ・タイプながらも、高度な技巧が生むまとまりのよい演奏のおかげでぐっと印象をよくしている。
個人的には、あまりにメロディアス・アンサンブルよりもパーカッシヴでリズミカルな演奏に魅力を感じる。
それは、リズムが活き活きとするとメロディにも個性的な表情が現れてくる気がするからだ。
残念なのはソロとしてのフレーズ、グルーヴはあるが、一度聴いたら忘れないようなテーマがないこと。
これは演奏力のあるグループによく見られる傾向である。
音楽という点で、CAMEL のようなグループをお手本にしていただきたい。
全編インストゥルメンタル。
プロデュースはローラン・クラヴェロとグループ。
1 曲目「Renaissance」(6:23)
4+3 拍子によるリズミカルなテーマを軸にしたエスニック・シンフォニック・インストゥルメンタル。
いかにもネオ・プログレ風のメロディアスなギターが中心となって曲をリードし、シンセサイザーが重厚なストリングスから透明感ある管楽器風のプレイなどさまざまな音を用いて脇を固めている。
硬質で存在感あるベースはいかにもプログレ風。
切ない歌とともにヘヴィなアクセントも効いており、バランスはとれている。
GENESIS や YES、U.K. を思わせる 70 年代プログレ・タッチともにエキゾチックな味つけが印象的だ。
ネオ・プログレのインストものとしては五指に入る傑作である。
2 曲目「Jettatura」(6:43)
チャーチ・オルガン、ギターをフィーチュアしたクラシカルで明朗なシンフォニック・チューン。
オプティミスティックな暖かみが特徴だ。
今回もミドル・テンポながらテーマのリズム・パターンは 4+3 拍子。
キーボードは交響曲をイメージさせるチャーチ・オルガンのプレイに加えて、EL&P 風のヘヴィなハモンド・オルガン、アナログ・シンセサイザーによる攻め立てるような調子も見せている。
中盤のワイルドなプレイが鮮烈だ。
ギターは一貫して泣きのテーマで迫り、終盤ようやくソロを見せる。
いわゆるプログレという意味では近年の THE FLOWER KINGS や LE ORME のような王道的な作風である。
オルガンの音がもう少し古風な方がさらによかったかもしれない。
3 曲目「Vertigo」(7:27)
エキゾチックなオルガンのオスティナート、ハードなギター・リフで迫るややハードロック調の作品。
ギターを中心に全体の調子がかなりヘヴィであり、特にギターは HR/HM 調のソロをガンガンかます。
なんとなく出身は「あっち側なのだろうか」という思いも浮かぶ。
オルガンとシンセサイザーは、一貫して異教の祭典めいた不思議な響きを続けている。
中盤から終盤では一転してギターが切なくエモーショナルな表情を見せ、全体にナイーヴなムードになる。
ここでのアナログ風のシンセサイザーが華やかでいい。
やや後半はもたれる気がするのは、もう一ひねりがないからだろうか。
4 曲目「Mascarade」(7:00)
ロマンティックでどことなく謎めいたバラード。
ギターが独特のレガートなベンディングも用いて、これでもかと切なくむせび泣く。
ストリングス系のシンセサイザーもギターを支え、エモーショナルなドラマを彩る。
しかしながら、ヴァイブの音が冷ややかなようで意味深な余韻を残すのだ。
中盤のギターがリードするパートなど、ヴォーカルがあれば PENDRAGON の作品にきわめて接近するような気もするが、ミニマルな幻想性の生む抑えが効いており、この物語すら無常の流れに消え去ってゆくことを示しているようだ。
ジャズ的な大人のセンスが感じられる。
5 曲目「Africa-Part 1」(6:35)
リズミカルで楽しいアフロ・ダンス・チューン。
打楽器系シンセサイザーとパーカッション、ドラムスによるいかにもアフロなオープニングから、ホイッスルを含めたややメランコリックな全体演奏へと進むも、リズムを強調した演奏はやがてビートの効いたダンスへと変化してゆく。
マリンバ、パーカッションの雨アラレとメロディアスなロング・トーン・ギターの組み合わせが、後期 GONG を思い出させる。
後半のスティール・ドラム風のシンセサイザーがおもしろい。
6 曲目「Africa-Part 2」(7:21)
パーカッション、ベースらによるビート感と民俗管楽器風の音によるうねりが心地よい作品。
草原の朝焼けをイメージさせる神秘性と素朴な詩に加えて、自然でダイナミックなグルーヴがある。
ホイッスル風のシンセサイザー、ヴァイブ、マリンバが細かなリズムを刻み、フレットレス・ベースがたゆとうようなうねりを返す。
ギターだけは同じ芸風にこだわっているようだ。
ワールド・ミュージック的な面も強く、イメージは JADE WARRIOR や GONG でしょう。ここまでのネオ・プログレ風の演奏と比べると、この二作の方がしっかりとした主張があると思う。
7 曲目「Jacaranda」(2:48)
エレアコ・ギターをフィーチュアした小品。
重々しいストリングスとギターの共演、対比を活かすアレンジがみごと。
フラメンコの足で取るリズムに似たパーカッション・ビート。
ドラマを孕みつつもふと消え去ってしまう。
もう少し発展してもよかったような気がする。
8 曲目「Excalibur」(10:51)
再びネオ・プログレ全開のストーリーものシンフォニック大作。
ベースがかなりフィーチュアされている。
子供向け。
(FGBG 4162.AR)
Eric AZHAR | guitar, keyboards, programming, background vocals |
Jean-Francois DUBOC | bass, background vocals |
Louis Di FUSCO | lead vocals, background vocals |
Laurent GUILLOT | sampling drums, background vocals |
Ralf ADAM | background vocals |
98 年発表の第二作「Flying Over The 21st Century」。
ギタリストとベーシスト以外はメンバーが交代。
ギタリストがキーボードも兼任し、作曲も手がける。
前作のキーボーディストがなかなかのセンスだったので、この交代は残念だ。
サンプリング・ドラムスが何かは定かでないが、おそらく「打ち込み」なのだろう。
もっとも、そのためのマイナス・イメージはさほど大きくない。
キーボードに関しては、ハモンド・オルガンがなくなってシンセサイザーのみになってしまったことが、音質のヴァリエーションを損なっている。
さらに前作と大きく異なるのは、ヴォーカルの大幅な導入である。
英語のリード・ヴォーカルに加えて、すべてのメンバーがバッキング・ヴォーカルをとっている。
全体に、現代的なサウンドとキャッチーなメロディを用いながらも、いわゆるネオ・プログレとは演奏力の高さで差をつけようという意図の感じられる内容である。
プロデュースは、エリック・アズハールとジャン・フランシス・デュボックとマックス・パウド。
1 曲目「La Magna Carta」(9:44)
シンセサイザーとギターが重層的にせめぎあうメロディックな作品であり、前作に通じる内容のシンフォニック・インストゥルメンタル。
リズム・パターンがシンプル(前作のドラムスがあまりに躍動的だった)なために、盛り上がるべき肝心のところでスケールの大きなメロディ・パートを支えきれていない印象がある。
一方、静かな空間的な広がりの感じさせる場面では、シンセサイザーとアコースティック・ギターをうまく組み合わせて効果を上げている。
マイク・オールドフィールド風のケルティックなニュアンスもあり。
2 曲目「Rooftop Sauce」(6:43)
80 年代ハードポップ(ASIA か)風の作品。
ここでヴォーカル・ハーモニーが初登場、ジョン・アンダーソン風というには一味足りない甲高いリード・ヴォーカルと無難なコーラスである。
ヴァース、サビともにあまりに普通なメロディ・ライン。
アメリカのネオ・プログレ・バンドにありそうなスタイルだ。
間奏のギターやシンセサイザーのバッキング、ドラムスなど、演奏そのものは切れ味がいい。
奔放さを見せつけるな上ものに対し、リズム・パートは、安定こそするもののやや単調。
特に、間奏部分はその傾向が顕著。
終盤以降のギターのパワーコードはあまりに能がない。
3 曲目「Punchinello Dying」(8:53)
リズム・チェンジや変拍子、そして謎めいたメランコリーなど、MARILLION ら英国ポンプの影響が強く感じられる作品。
フラメンコ調のアコースティック・ギターによるエモーショナルなイントロ。
泣きの白玉シンセサイザーが湧きあがり、切々たるメロディがリードする。
ヴォーカルのウェットさはまさしく英国ポンプ調。
大仰な序章である。
勢いのいいリズムで走り出す変拍子アンサンブルと苦しげに歌いこむヴォーカルは、まさしく MARILLION の第一作辺りの雰囲気である。
間奏パートでは、キーボード、リズム・セクションが挑戦的な表情を見せてスリリングな演奏をしており、かなり面白い。
オルガン風の音も用いられている。
フリー・フォームのようなミステリアスな展開も自然だ。
ラストのヴァースを経て堰を切ったように歌いだすギターは、お約束とはいえ、かなりの力演。
全体にドラマティックにしてメロディアスな力作だが、抑揚があまりにネオ・プログレ様式にはまっているため、聴く人を選ぶかもしれない。
4 曲目「Big Band」(9:36)
ほのかなアラビアン・エキゾチズムを漂わすワールド・ミュージック風ロック・インストゥルメンタルの秀作。
前作の路線です。
強いアクセントでたたみかけるメイン・パートと神秘的かつアコースティックなパートを行き交う。
力強く攻め立て走るところでは、へヴィでメタリックなギターも自然であり悪くない。
中盤ロングトーンでゆったりと歌い上げるフュージョン風のギターも美しい。
ナチュラル・ディストーションのカン高いギターを聴いているとマイク・オールドフィールドを思い出す。
5 曲目「Forbidden Roots」(4:47)
ジャジーなアコースティック・ギターの弾き語り調のバラード。
声量の足りないヴォーカルがかえって切実さを強めている。
ヴォーカルに寄り添うフルートやオーボエを思わせるシンセサイザーは、70 年代ならメロトロンだろう。
サビの頃から次第にバッキングが充実し始め、絞り出すようなヴォーカルとともになんとなく Sting の作品のよう。
ハーモニウムを思わせるシンセサイザーとギターによるエピローグが切ない。
佳曲。
6 曲目「Taj Mahal」(7:09)
インド風のイントロ、アウトロを配すも中身は目いっぱいの演奏で走りきるハード・シンフォニック・チューン。
クラシカルなテイストも見せつつも一気に走り出すスタイルはあと一歩でクラシカルなメタル調だが、なんとかプログレ側に踏みとどまっている。
ギターは泣きのメロディだけではなくダイナミックな力強さがあり、スピーディな展開をぐいぐいとリードする。
あからさまな打ち込みドラムスが少しだけ気になるが、全体としては、勢いで押し切る痛快な作品といえる。
7 曲目「Proxima Centauri」(6:48)
慈愛の響きのある南米プログレ風歌ものポップス。
たおやかなメロディと声、クラシカルなフルート、ラテン風味たっぷりのアコースティック・ギター、一気呵成のシンセサイザー。
地中海の暖かみとヨーロッパ大陸のメランコリーを交えて、プログレの魔法の粉をふりかけた佳品です。
ヴォーカルは Sting とピーター・ニコルズ(力むと似る)の中間くらい。
こういう作品では、打ち込みドラムスがかえって自然に聴こえる。
佳曲。
ヴォーカル導入によるポップ・センスの開花は歓迎できるものの、前作で見せたエキゾチック・テイストの輝きと比べると、個性という点では今ひとつかもしれない。
演奏の中心にシンプルなネオ・プログレ風スタイルを持ち込んでしまったせいで、特徴が見えにくくなってしまった。
演奏力はすさまじいので、無理にプログレ・クリシェを入れずともそのパワーで十分勝負ができたと思う。
歌もののメロディも、どこかで聴いたようなものが多い。
ギターやシンセサイザーのフレーズも、部分的にはオオッと思わせるところもあるが、聴き終えてみるとさほど印象に残らない。
インストゥルメンタルの三曲のみがなかなかの佳作である。
全体としてはかなりの出来映えだと思うが、前作の後半のような弾けるような主張は見当たらない。
(FGBG 4228.AR)
Eric AZHAR | guitar, keyboards, drums, effect |
Yvon LUCAS | lead vocals, backing |
Ralf ADAM | keyboards, background vocals |
Jean-Francois DUBOC | bass |
2005 年発表の第三作「Stigmata Of Change」。
久々の新作は、新ヴォーカリストの技量を活かした英国プログレッシヴ・ロック王道路線を思わせる力作。
若干やり過ぎ感もあるが、いろいろな雰囲気をプログレやニューウェーヴなどの「憂鬱な英国ロック」を軸にまとめている。
曲名から類推するに、一つの主題が貫く作品、トータル・アルバムのようだ。
プログレという点では、SATELLITE らポーランド勢と同じく、PINK FLOYD や GENESIS、MARILLION を追いかけて、そのまま高みに登っていったのだろう。
アズハールのギター・プレイはきめ細かい上にすっきりと現代的である。
バンクス、ハケットの真似もうまいに違いない(たまにそのものも出てくる)とも思わせるものである。
初期の作品では特徴的だったエキゾチズムも、その活かし方がいかにも英国ロック的である。
もう一ついいのは、自然な抑揚がありきちんとサウンドスケープが作られていること、すなわちプロダクトとして立派に仕上がっていることである。
いわゆる癒し系のような音もあるが、変化の流れにうまく置かれているため、退屈になるどころか劇的な効果がある。(8 曲目、9 曲目に顕著)
もはやプログレのスタイルに拘泥しない作品もある。
それでも、ぬぐいきれない憂鬱さを、甘すぎず柔すぎず大上段に振りかぶり過ぎずにバランスよく(しかしねちっこく)音で示せているだけでも天晴れだし、やはりあちこちに「プログレの素養」がにじみでていることは二三度聴き込めばすぐ分かる。
(プログレと意識させないプログレなんて、70 年代初期の野心的な英国バンドのようではないか!!)
ただ、もしそこまでしっかりと訴えることがあるのなら、できれば、フランス語なり何なりの母国語で伝えてほしかったとも思う。(もちろん英語が母国語の可能性もある)
ともあれ、若々しいメランコリーを抱えて闇をさまよいながらも、自然な透明感のにじみ出てくる作品だと思う。
また、現代的なサウンドに散りばめられたプログレ風味が比較的わかりやすく聴ける作品ともいえる。
打ち込みもスタイルに合っているので問題なし。
最終曲は、力強い歌唱でストレートに迫るオルタナ風の作品。この曲の余韻がいい。
ヴォーカルは英語。曲名も英語である。「STIGMATA」とはキリスト受難の際に受けた傷、聖痕のこと。
プロデュースは、エリック・アズハールとマックス・パウド。
「A Lust」(8:58)PORCUPINE TREE 系薄暗ポーランド・ロックやポスト・ロックを意識した内容だが、自然な優しさがにじみでているメロディアスな佳曲。
「An Errand」(6:03)
「Stigmata Of Change (Part 1)」(1:50)重厚な弦楽奏によるブリッジ。
「A Start」(6:52)エキゾティックな響きがニューウェーヴっぽさを強調するブリット・ロック。
「Alice」(2:57)
「A Misstep」(7:00)古いようで新しいような微妙なハードロック。ライヴ・ハウスではなくホテルのショーで演りそう。と思ったら次第にプログレ化。ホテル云々はメロディが古めの映画音楽っぽいせい?
「A Shrine」(6:23)半音進行で揺らぐ奇妙なテーマを巡るバラード。深く湿った霧のようなイメージ。シンセサイザー・ソロがプログレ。
フレンチ・ロックらしさ強し。
「A Revelation」(9:56)女声スキャット、エレアコ・ギターが美しく哀しい幻想曲。中盤ではシンセイサイザーが走るドラムンベースへ発展。
「An End」(5:08)ニューウェーヴ系ポストロック。
「A Doubt」(0:59)
「Stigmata Of Change (Part 2)」(1:18)
「Smoke」(7:08)ポジティヴな余韻がいい。
(CYCL 148)