SATELLITE

  ポーランドのプログレッシヴ・ロック・グループ「SATELLITE」。2002 年結成。 元 COLLAGE のメンバーが中心。作品は四枚。 作風は、正統派ネオ・プログレッシヴ・ロック。 ドラマーがリーダー格なので打楽器アレンジが凝っている。

 Nostalgia
 
Robert Amerian voice
Sarhan Kubeisi guitars
Jarek Michatski bass
Wojtek Szadkowski keyboards, acoustic guitar, drums
Krzysiek Palczewski additional keyboards
guest:
Amarok additional keyboards, last guitar solo on 7

  2009 年発表の第四作「Nostalgia」。 内容は、耽美でメロディアスながら骨もあるオルタナティヴ・ロック。 英国ロックの鬱気味の感傷と米国ロックのシンプルさとガッツを巧みにまぜこんでおり、デリケートなタッチと若々しい弾力性が一つになっている。 PINK FLOYD 的なトーンはあるが、音楽的骨格はさほど似ておらず、むしろ CAMEL や英米のハードロックの影響が露になっている。 ただし、それがかえって PORCUPINE TREE フォロワーがひしめく中では個性になっている。 シンプルな疾走や分かりやすい緩急、突き抜けるような叙情性、ブルージーなのに明日に希望をかけるような表情など、オールド・ファンの耳にも訴えるところは多い。 厭世をクールネスと勘違いしているバンドは多そうだが、この人たちからはそういう感じは受けない。 気は弱いかもしれないが、間違った道は歩んでいない。 6 曲目のブラス、ストリングス風のアレンジはかなりカッコいい。 他にも、随所に耳をそばだたせるしかけがあり、飽きさせない。 今回もドラムスがうるさいほど活躍している。 ヴォーカルは英語。

(MMPCD 0659 DG)

 A Street Between Sunrise And Sunset
 
Robert Amerian vocals
Sarhan, Mirek Gil guitars
Darek Lisowski keyboards
Krzysiek Palczewski keyboards
Przemek Zawadzki bass
Wojtek Szadkowski drums, percussion

  2003 年発表の第一作「A Street Between Sunrise And Sunset」。 COLLAGE のキーパーソンであったドラマーとギタリストを中心に、新旧 COLLAGE のメンバーが揃った、事実上のグループ再編である。 内容は、「Moonshine」のゴージャス・シンフォニック路線と「Safe」のソリッドなロックの中道を往く大作路線。 懐かしめの音をたっぷり使ったキーボードと朗々と歌うギターを中心にした布陣には、シンフォニックなプログレの正統後継者の風格が漂う。 そして、そういう音に感傷的なメロディを浮かび上がらせる手腕の冴えも、前身グループのままいささかの変化もない。 優美でファンタジック、なおかつほのかにブルージーでロックなエッジも立っている作風は、いわば二代目 CAMEL である。 同様な作風ながら、ポップにして甘すぎない聴かせどころをつかんでいるという意味では、PENDRAGON を凌いでいるかもしれない。 6 曲目中盤、Mike Oldfield のようなケルト風の音による演奏では、得意のしっとりとした叙情性と好対照を成す清涼感もある。
   ただし、メロディアスでエモーショナルな歌ものロックとしての完成度が高い一方で、想像力をかきたて予想もしなかった思いを沸騰させるような、破天荒なスケール感はない。 ジャケットに描かれたやや月並みなテーマと同様に、音の方も、エキセントリックな独創性に普遍性がにじみでるといった感じではないのだ。 スタイルや意匠、テンプレートは、現代においては避けようにも避けられないが、単なる模倣で終わらせないためには、そういう世界でもがく姿をダイレクトに傲岸不遜に伝えるしかない。 確かに、往年の YES を思わせるインストゥルメンタルは、美しくスリリングであり、表現も明快である。 それでも、足元が揺らぐようなインパクトが感じられないのは、叩きつけるような性急さ、敏捷さや気まぐれのような若々しさがほとんどないせいだろう。(まあもうそんなに若くはないのだろうけど) ECHOLYNTHE FLOWER KINGS には、予定調和にいらついて蹴っ飛ばすような痛快さがあるし、JADIS は演歌ロックに接近してゆくに連れて独特のテイストが出てきている。 やはり、他人と同じことはやらない、という気概は大切なんだろう。 おおざっぱにいって、じっくり歌いこむよりも、1 曲目終盤の流れるようなシンセサイザーのリードするパートや 4 曲目のインスト・パートのように走り続ける方がはるかにカッコいい。 なお、打ち込み風のリズム・トラックの多用や妙に凝ったリズム・パターンなど、ドラムスのアレンジは冴えている。 このリズムを生かしたタイトル・チューンは間違いなく力作。 ヴォーカルは英語。

(MMPCD 0199)

 Evening Games
 No Image
Robert Amerian vocals
Sarhan Artur Kubeisi guitars
Krzysiek Palczewski keyboards
Przemek Zawadzki bass
Wojtek Szadkowski drums, acoustic guitar

  2004 年発表の第二作「Evening Games」。 内容は、ミドルテンポで切々と綴る哀切と救済のメロディアス・ロックである。 ミレク・ギルとは再び袂を分かったらしいが、作品そのものは、AOR 調のプログレ・クリシェ総覧に聞えてしまった前作から大きくグレードアップした。 おそらく、政情不安の続くロシアの一地方で起こった悲劇という主題が貫かれたことによって、音楽のもつ力が一気に強まったのだ。 ザドコフスキは、音楽家としての矜持にかけて、やり場のない気持ちをメッセージに変えて世界に語りかける。 その語り口には、PINK FLOYD から GENESISMike Oldfield(5 曲目)、MARILLION にまでわたる表現としての共通要素がある。 それはまったく悪いことではない。 なぜなら、経験の総体としての自分のすべてを賭して音にメッセージを入れ込もうという気概が感じられるからだ。 ディランならギター一本で絶唱したろうが、このドラマーにとっては、こういう音で訴求することが最も自然なのである。
   1 曲目の力作から、純朴で丹念にメロディを紡ぎ胸を打つギター(専門ではないらしいが、コンプレッサを効かせた独特のフレージングがじつにいい)、キーボードとギターのやり取り(IQ に迫るセンスのよさである)、アコースティック・ギターによるカットバック、幻想と現実を巧みに行き交うようなアンサンブルの表情付け、など丁寧な音楽的演出が成されて物語が綴られてゆく。 さらに、メロトロン・ストリングス、ブレイクビーツ、ヴォーカルのイコライジングといった現代風のアクセントの他にも、ドラマーが主役のバンドらしく、豊富な音数、リズム・マシンと人力ドラムスの合成、エキゾティックなパーカッションといった演出で曲展開を操っている。 そして、スケール大きく奥行きのあるキーボード・サウンドも健在。 ヴォーカリストは、ひそひそと小声で歌う(「Musicalbox」のピーター・ガブリエルを思い出していただきたい)のが特徴的。これがいいかどうかは純粋に好みの問題だろう。 全体に、たとえば 3 曲目中盤のサイケデリックな爆発やムーディなアダルト・ロックのような展開に走っても、音楽的なピントがずれず一貫した響きをもっているところがすごいと思う。
   悲劇から目をそらさず、何とかしてそれを乗り越えようとする力強い姿勢が見える現代シンフォニック・ロックの傑作。 パワーと表現力は THE FLOWER KINGSSPOCK'S BEARD に十分匹敵し、繊細な表現力という点ではそれらを凌駕する力作である。 ヴォーカルは英語。
   「夕暮れ時、「早くお帰り」という母の声がする。けれど、子供たちは誰一人帰らなかった。」
  
(MMP CD 0297)

 Into The Night
 
Robert Amerian vocals
Sarhan Kubeisi guitars
Krzysiek Palczewski keyboards
Jarek Michatski bass
Wojtek Szadkowski drums

  2007 年発表の第三作「Into The Night」。 ファンタジックにしてラウドな勢いもある好作品。 COLLAGE の最後の頃からオルタナティヴ・ロック、英国ギターロック風のヘヴィーな面も見せていたが、今回はそれとデジタルなビート感が強調されていて、とても現代的なイメージの音になっている。 突っぱねるように反抗的な調子がいかにも「ロック」である。 イコライザの効いた音響派風のアクセントもいい。 そうなると、アコースティック・ピアノが静々と語り始めるシーンも活きるというものだ。 もちろん、「Epitaph」 ばりのメロトロンや粘っこく泣くギターといったクリシェ(というにはあまりに根っこにあるんだろうが)や、ネオ・プログレ特有の耽美なメロディー歌謡調も堂に入っている。 しかし、そういうファクターは、今回は二の次である。 何よりロックらしいパワーとグルーヴがうれしい。 突っ張ってトンがった表現がアヴァンギャルドでアーティスティックに響いてくる、スタイリッシュなミュージシャンとしては理想的な状況ではないだろうか。 轟音を放つギターににじむセンチメンタリズムは、個人的に TEENAGE FUNCLUBRADIOHEAD を初めて聴いたときに感じたものに近い。 今回も、小刻みなパーカッションやヴァイブなど、打楽器系はさりげなくもいろいろと工夫している。 前作くらいから、いわゆる HM だ、プログレだというスタイル上のことが気にならないくらい、カッコよくなってきました。 ヴォーカルは英語。 冒頭のハーモニクス、ドラムス、ギターの音のカッコよさ、まるで超メジャー・アーティストのアルバムのようです。 2 曲目の組曲「Dreams」は浪漫あふれる傑作。

(MMPCD 0560 DG)


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