フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「TRANSIT EXPRESS」。 BRAND X や FERMATA とならぶヨーロピアン・ジャズロックの最高峰の一つ。 二作目からは、早世した名手デヴィッド・ローズのヴァイオリンがフィーチュアされる。作品は三枚。
Domonique Bouvier | drusm, percussion |
Jean-Claude Guselli | bass |
Christian Leroux | acoustic guitar, guitar(ovation) |
Serge Perathoner | keyboards, synthesizer |
75 年発表の第一作「Priglacit」。
銅鑼の一撃から始まる本作、その内容は、雰囲気は MAHAVISHNU ORCHESTRA、テーマは RETURN TO FOREVER といった感じのハード・ジャズロック。
アルバムは、小曲(最長でも 3 分 40 秒ほど)を連ねたオムニバス形式になっており、いわば、クライマックスだけが連続するような形になっている。
演奏の中心は、シンセサイザー、クラヴィネット、ローズを主とするキーボードのプレイだろうか。
アコースティック・ギターが多く使われるところも特徴的だ。
メロディやフレーズは、品がなくなるほどではないにしろ、それなりにキャッチーであり、うっすらととしたエキゾチズム(スパニッシュ過ぎないところがいい)、神秘性もある。
せめぎ合うように高まってゆく変拍子/ポリリズム・アンサンブルの迫力は、いうまでもないだろう。
ドラムスの音数がやたらと多く、攻撃的でせわしなく聴こえてしまうところも多いが、キーボードやギターのなめらかでロマンティックなリードで、うまくバランスを取っている感じだ。
爪弾くようなローズ/アコースティック・ピアノが、本来高密度でタイト、硬質な演奏を、ファンタジーの余韻で縁取ってゆく。
メローではあっても、ファンキーでライトな感覚はあまりなく、クラシカルで重厚なロマンの趣が強い。
やはり、ヨーロッパ、仏蘭西のセンスなのだろうか。
演奏力と表現の豊かさについては、アメリカの主流と比べて全く遜色なく、スーパーな内容といえる。
全曲インストゥルメンタル。
収録時間が 30 分とやや短めなのが残念。
「Priglacit」とはどういう意味なのでしょう??
「Priglacit」(2:50)
「Drousia (I) 」(1:40)
「Drousia (II) 」(0:55)
「Contrat-Session」(2:25)
「Planerie」(2:25)
「Bahar」(2:20)
「Contradiction」(0:50)
「Ludion」(1:30)
「Wanda」(3:40)
「Vinitier」(1:30)
「Connection」(1:15)
「Flaure」(2:00)
「Coexistence」(3:40)
「"ILS"」(2:20)
(FPL1 0089 / PBME 03)
Dominique Bouvier | percussion |
Jean-Claude Guselli | acoustic & electric bass |
Christian Leroux | acoustic & electric guitars, synthesizer |
Serge Perathoner | acoustic & electric piano, clavinet, synthesizer, ring modulator |
David Rose | acoustic & electric violin on 8,9 |
76 年発表の第二作「Opus Progressif」。
内容は、再び MAHAVISHNU ORCHESTRA、RETURN TO FOREVER、BRAND X 系のテクニカル・ジャズロック。
緻密にしてテンション高くせめぎあい、メローなところはとことんメローで夢見がちになる「あの」スタイルである。
特に、スペイシーにしてデリケートな表現がいい。
ジャズの都会的な洗練とプログレの非現実感を巧みに交差させている。
ただし、フランスのグループらしく、煮え立つようなベースのリフが演奏に凶悪な野生味を付け加えている。
MAGMA もそうだが、フランスのジャズロック・グループは、ジャズやクラシックの解釈に独特のものがあるらしく、この原初的な荒々しさが顕著な共通性となっている。
さて、本作の聴きどころはルローのギター、名手ペラソネルのシンセサイザー/エレクトリック・ピアノの熱気迸るバトルと、ダークな幻想性をたたえるエレクトロニックなインプロヴィゼーション。
ファンキーでも汗臭さはなく、メランコリックな哀愁やキーボードを中心としたアヴァンギャルドなセンスが光るところは、やはりヨーロッパの音といえるだろう。
ファンタジックでメロー、時に過激に歪むエレピとともに、アコースティック・ピアノ、アコースティック・ギターの抑制されたプレイも冴える。
タイトル・ナンバーの大作では、アメリカ出身のデヴィッド・ローズを迎えてヴァイオリンを大きくフィーチュアする。
アコースティックな音を活かしており、ジャズやロックではないヨーロッパのルーツ・ミュージック(トラッド/フォークといえばいいのだろうか)的な面も見せる傑作である。
全曲インストゥルメンタル。
ジャケットは再発 CD(日本/US 盤 LP)のもの。曲名表記も英語になっている。(左側)
右はオリジナル LP のジャケット。
「Convulsion」(4:10)テクニカルなユニゾンの殴打で脳震盪という常套手段。ただし独特の重みがあり、そこが個性。
ザヴィヌルに負けない、ノイズを活用したキーボードの技にも注目。
「Disparition」(3:15)MAHAVISHNU なアルペジオが導く変拍子ジャズロック。
キーボードの即興がカッコいい。
「The Whisperer Of Dreams」(6:35)フュージョンにはない幻想味がすばらしい佳品。ペラソネル作。
「Dialogarhythm」(4:30)ファンキーなグルーヴを鋭角に面取りしたような切れのある作品。
「La Porte De Bag」(0:50)
「38 CM/S」(2:40)
「Maldoror」(4:47)ミニマルな表現に民族色が浮かび上がる密やかなるバラード。ペラソネル作。
ピアノとダブルベースによる厳かな序章、渦を巻くシンセサイザーにアコースティック・ギターが寄り添う。
「Opus Progressif 1」(2:55)トラッド/フォーク的なアコースティック小品。
刺々しいギターのアルペジオに不思議なヒプノティック効果あり。
「Opus Progressif 2」(7:35)エレクトリック・ヴァイオリンをフロントに迎えた、ラフでブルージーなジャズロック。
ライヴな雰囲気がいいがスタジオ盤には収まりきらない。
(FPL1 0130 / PBME 04)
Dominique Bouvier | percussion |
Jean-Claude Guselli | basses |
Christian Leroux(Basile) | guitars |
Serge Perathoner | keyboards |
David Rose | violins |
77 年発表の第三作「Couleurs Naturelles」。
本グループの音楽の基本である、アコースティック・ピアノとヴァイオリンのコンビネーションはそのままに、テクニカルな作風に華やかさが加わった傑作アルバムである。
テクニカルな変拍子アンサンブル with 透明感あるサウンドを基調に、メシアン、バルトーク周辺の現代音楽、エレクトリック・ファンク、民族音楽など、さまざまな要素を導入した、文字通りのフュージョンだ。
弾みの効いたリズム・セクション、スペイシーなシンセサイザーとヴァイオリン、悩ましげなアコースティック・ピアノなど、シャープな運動性と深みのあるファンタジー性が手を組み、美しくもスリリングな世界になっている。
感傷的で穏かな音がいつしか強靭なファンクに変化するような意外な展開も、わりと自然に流してゆく。
したがって、初期 WEATHER REPORT に通じる美的センスを感じるところもある。
特に、ポリリズミックな演奏が、アップテンポの鋭いアンサンブルでも、アコースティック・ギターのアルペジオとヴァイオリンがささやくような場面でも、大胆に盛り込まれて、一種幻惑的な効果を上げている。
そして、普通の係り結びにとどまることを潔しとしないせいか、かなり挑戦的な音響効果も使われている。
また、誤解を恐れずにいうならば、VIRGIN レーベル風のニューエイジっぽいサウンドも随所にアクセントとして使われている。
そして、これらの総体として、ARTI+MESTIERI のようなシンフォニックなプログレ風味も生まれている。
プロデュースは、グループ。
インナーには、このグループがバックバンドを務めたイヴ・シモンの言葉が記載されている。
1 曲目は、メシアンの「世の終わりのための四重奏曲」の第六楽章そのもののような挑発的なテーマが強烈な印象を残す。
白眉は、シンフォニックな幻想ロマンの 2 曲目「Visite Au Manoir」。傑作。
4 曲目「Au Dela Du Miroir」は、気品あふれる一編。
7 曲目「Stress」は、MAGMA を思わせるヘヴィかつ音数の多い作品。
8 曲目「L'image Du Miroir」は、4 曲目の変奏。
「10ème Rue Est」(5:00)
「Visite Au Manoir」(7:20)
「Marchand De Sable Et Père Fouettard」(4:40)
「Au Delà Du Miroir」(5:50)
「Le Grand Escalier」(2:00)
「Cathédrale De Verre」(1:30)
「Stress」(1:50)
「L'image Du Miroir」(2:00)
「Qui Donc A Rêvé?」(3:10)
(PBME 05)
David Rose | electric & acoustic violins |
Peter Eggers | piano, clavinet, organ, Fender Rhodes |
Serge Perathoner | piano, Fender Rhodes, organ, Arp, Moog |
Christian "Basile" Leroux | guitars |
Jean-Claude Guselli | basses |
Dominique Bouvier | drums, percussion |
Gerard Prevost | bass on 3 |
77 年発表の作品「Distance Between Dreams」。
第二作から参加したアメリカ人ヴァオリニスト、デヴィッド・ローズのソロ第一弾である。
TRANSIT EXPRESS 組が全員参加し、さらにキーボーディストのペーター・エガースと ZAO のジェラルド・プレヴォも迎えている。
内容は、クラシカルな叙情性、神秘性に富んだ優美なジャズロックである。
グランド・ピアノとヴァイオリンというシンプルな構成による対話には、フォーレやラベルを連想させる薄暗い透明感とエレガンスがある。
そして、澄み切ったロマンチシズムが貫く基調のうちにあって、技巧を集約したアンサンブルがより一層の冴えを見せている。
一つにまとまったアンサンブルは熱気をはらんでどこまでも飛翔し続ける。
エネルギッシュだが荒々しさはなく、その軌跡はしなやかであり、音色はひたすらつややかだ。
ヴァイオリン特有の手折れそうなデリカシーとヒリヒリするスリルを豊かな叙情性のうちにうまく活かしたジャズロック・アルバムの佳作である。
ファンキーなフュージョンしか知らない方にぜひこういう音を聴いてもらって世界を広めてほしいと強く思う。
ほぼ同時期の SOFT MACHINE の「Alive & Well」と同様に、ニューエイジ・ミュージック的な面もすでに見られる。
全曲インストゥルメンタル。
プロデュースは、ローラン・チボー、セルジュ・ペラソネル、デヴィッド・ローズ。
「Late Afternoon」(4:19)
「The Beast」(4:00)
「Le Petit Prince」(2:09)
「Skyway」(3:15)
「Starset」(5:04)
「Distant Relations」(4:24)
「Amid Daydream」(3:48)
「Echoes」(2:27)
「The Distance Between Dreams」(6:26)
(GRATTE-CIEL ZL 37094 / PBME 01)
Gerard Prevost | bass |
Claude Salmieri | drums |
Serge Perathoner | keyboards |
Gerard Kurdjian | percussion |
David Rose | violins |
2003 年発表の作品「Live」。
DAVID ROSE GROUP 名義のライヴ・アルバム。
78 年 4 月 22 日録音。
内容は、流麗かつスリルもあるジャズロック。
ピアノとヴァイオリンのジャジーなやり取りをタイトなリズム・セクションが波打たせる、美しくもエネルギーをはらむ演奏である。
アコースティック・ピアノとヴァイオリンのコンビ、エレクトリック・ピアノとヴァイオリンのコンビをうまく使い分けて、クラシックからジャズ、ジャズロック、ファンキー・フュージョン、ワールド・ミュージックの美味しいところをさらってゆく。
プレヴォの MAGMA なベース、不思議と土臭くならなず管弦楽の打楽器的なニュアンスのあるパーカッションも特徴的。
熱のある肉感的でしなやかなところ、ヘヴンリーでニューエイジっぽいところ、室内楽的な整合感、これらのブレンド具合が抜群といえるだろう。
自由なソロも交えてライヴな勢いがほとばしる第一作のタイトル・チューンが白眉。
最終曲、終盤のクライマックスもすさまじい。
「Late Afternoon」(6:04)第一作より。
「Le Petit Prince / Starset (For Bela Bartok)」(6:54)第一作より。
「Worlds Apart」(7:23)第二作より。
「Au Dela Du Miroir」(8:16)TRANSIT EXPRESS の第三作より。
「Skyway」(6:52)第一作より。
「The Distance Between Dreams」(23:07)第一作より。
「The Beast / Amid Daydream / L'Image Du Miroir」(12:39)第一作、TRANSIT EXPRESS の第三作より。
(FGBG 4391.AR)