SLOCHE

  カナダのジャズロック・グループ「SLOCHE」。71 年結成。ケベック出身。作品は RCA からの二枚。個性的なジャズロック。

 J'un Oeil
 
Rejean Yacola piano, Fender Rhodes, Wurlitzer piano, Horner clavinet, celesta, mini-moog, percussion, voice
Martin Murray Hammond B-3, mini-moog, Wurlitzer piano, Solina string ensemble, sax, percussion, voice
Caroll Berard electric & acoustic guitar, voice
Pierre Hebert bass, percussion, voice
Gilles Chiasson drums, percussion, voice

  75 年発表の第一作「J'un Oeil」。 内容は、クールでカラフル、ファンタジックで人懐こいジャズロック。 特徴は、シンセサイザー、エレクトリック・ピアノ、オルガンなどツイン・キーボードを活かした多彩な手ざわりの音響とリズミカルな全体演奏、まろやかなヴォーカル・ハーモニーなど。 グルーヴ一本槍のいわゆる「フュージョン」とはやや趣が異なり、カンタベリーよりもややスペイシーな広がりとソウル風味があり、展開はさほど凝らずストレートに迫る作風だ。 カッコよくユニゾンを決めるが、テクニックは前面には出ず、テクニックが裏付けるフレーズやアンサンブルの妙味や奇天烈さがアピールしてくる。 また、このタイプのグループにしては、エレクトリックな音響演出やオルガンをフィーチュアしてシンフォニックなプログレ寄りのイメージを抱かせるところがユニークだ。 叙景的で明確な曲想が感じられるところも、プログレらしい。 たとえば、ストリングス・シンセサイザーをセンスよく用いたファンタジックなシーンの演出は、CAMELYES のスペイシーな部分にも通じる。 もっとも、凝ったアンサンブルを構築するよりは、ソウルな熱気とジャジーな感覚に任せた即興的な展開が得意なようで、キーボード・ソロも大きくフィーチュアされている。 一方、ギターはナチュラル・ディストーションが小気味いい、どちらかといえばハードロックのグループにいそうなタイプ。 技巧的だがパワーで押すのも忘れていない。 また、オルガンが非常にいい感じで使われているところは、プログレ・ファンには強く訴えるだろう。 ヘヴィな音が、こういったジャズロックではとても新鮮に感じられる。 ヴォーカルはフランス語であり、どうしても HARMONIUMET CETERA を髣髴させる。 ゆったりと厚ぼったいハーモニーがいい感じだ。
  ゆったりとしたテーマを綴る作風と、挑発するようなアヴァンギャルドな演奏が大胆に散りばめられて進むが、結局最後には、キーボードとハーモニーの魔術で納得させられてしまう。 B 面の楽曲に象徴されるような、さまざまな音楽的素地をはばかることなく打ち出して実験精神も発揮した、多面的できまぐれ、ごちゃごちゃなイメージが魅力といえるだろう。 フランス系のアート感覚はイタリア以上に暴力的で危ない感じがします。
   プロデュースは、グループとガエタン・デビアン。

  「C'pas Fin Du Monde」(8:55)スキャット入りのスペイシーで SF チック、ややルーズな大作。 終盤は、仕切り直したようにファンキーに跳ね始め、ムーグ、クラヴィネットとともにギターもうねる。

  「Le Kareme D'eros」(10:52)三部構成のオムニバス大作。ジャズロック側からシンフォニックなプログレを振り向いたような内容である。 ロマンティックかつ技巧的なところは、フランス版 RETURN TO FOREVER か。前半は印象派+モダン・ジャズ風のアコースティック・ピアノ・ソロをフィーチュア。 中盤からはフランス語ヴォーカルと力強いリズムが加わり、分厚いアンサンブルでパワフルかつ神秘的に迫る。 ギターとムーグ・シンセサイザーによるスペイシーかつハード・タッチのかけあいから、洒落たヴォーカル・パートを経て、終盤は EL&P がジャズロックをやっているような変拍子のカッコいい展開となる。南米アルゼンチンの ALAS というグループにも似たアプローチがあったと思う。


  「J'un Oeil」(4:44)GENTLE GIANT を思わせる歌ものジャズロック。 リズミカルな変拍子リフとメロディアスなヴォーカル・ハーモニーの強烈な対比、スペイシーなサウンド・スケープによる不思議と冗長な経過パート、フレーズの小刻みな応酬によるオブリガートなど、GENTLE GIANT そっくり。 クラヴィネットが多用されて、跳ねるようなイメージを強調する。

  「Algebrique」(6:32) アコースティック・ギターの憂鬱なアルペジオ、WEATHER REPORT 風の即興エレクトリック・ピアノのささやき、YES のような徹底してギクシャクしたトゥッティ反復、ソウル調のメイン・パート、変拍子反復、アブストラクトなシンセサイザーのソロなど、通常の脈絡を拒否した分裂症気味の作品。 変拍子アンサンブルをあざやかに決めながらも、進行は断続的であり、ズッコケ気味。 ヘヴィなサックスやドラムスのプレイもフィーチュア。 前曲に続き、GENTLE GIANT を意識したような演奏である。 すさまじい技巧だ。普通のフュージョン・ファンから拒否されるのは確実な曲である。

  「Potage Aux Herbes Douteuses」(7:10)R&B、ディスコ調の軽妙なノリの演奏と強圧的な裏打ちリフでたたみかける演奏が交錯し、やがて、キーボードが生むシンフォニックな高まりとともに宇宙へと解き放たれる。思い切りの足りないハービー・ハンコックか。 ヴォカリーズで立て直した後半、厳かなチャーチ・オルガンが高鳴り、しなやかなギターがオルガン、ストリングスとともに高みを目指して突き進むところは、プログレど真ん中。 ヴォカリーズが再び現れると、もはやこれは YES である。
  
(RCA KPL1-0126)

 Stadaone
 
Rejean Yacola Fender Rhodes, Wurlitzer piano, Horner clavinet, mini-moog, piano
Martin Murray Hammond B-3, mini-moog, Wurlitzer piano, Solina string ensemble, soprano sax, tambourine
Caroll Berard electric & acoustic guitar, talk box, percussion
Pierre Hebert bass
Andre Roberge drums, percussion
Gilles Ouellet celesta, percussion

  76 年発表の第二作「Stadacone」。 内容は、能天気さと野太いワイルドさが特徴のジャズロック。 ツインキーボードを生かしたぶっとくキレのあるアンサンブルであり変拍子もお手の物だが、キツキツの技巧をアピールするのではなく、人懐こくルーズなポップ・タッチが主である。 前作のあからさまなプログレ風味は減退するも、テクニックを強調し過ぎず、メロディアスに素っ頓狂なまでにユーモラスに迫っており、フュージョンとは似て非なる音楽である。 シャワーのように迸るストリングスとジャジーなオルガン、アナログ・シンセサイザーの暖かく太く自己主張の塊のように遠慮のない音色と、その華やかな上ものを支える無骨なドラミングが特徴だ。 ブルーズ・ロック魂をそのままキープしたギターのプレイも潔くて好感あり。 なんというか融通無碍であり、アレンジに凝っているようでいてその実思いついたアイデアをそのままぽんぽんと放り込んだようなパフォーマンスなのではと思わせる。 とにもかくにも、ロック・ジャム的なたくましさ満点の演奏なのだ。
   スリリングなフレーズ、和声展開とインタープレイにクールなジャズ・フィーリングがあふれるが、軸となっているのは、あくまでロックらしいルーズなカッコよさやユーモア感覚である。 ソウルフルに、ファンキーに跳ねても、ハードロックのマインドがある。 この革新的かつ敏感なセンスが、ケベック・シーンに通底するミュージシャン・シップというかカウンター・カルチャーとしてのモラールであり、流行に合わせてスタイルだけ必死にコピーして限りなく本物に近いニセモノ・フュージョンを多産した日本とは大きく異なるところだと思う。
   音から来るイメージは、オランダの SCOPESOLUTION、ベルギーの ALQUIN、フィンランドの FINNFOREST、辺り、そして 70 年代後半の一部の日本のロックバンドである。 (FOCUS はもっとクラシカルで雅だし、HAPPY THE MAN はもっと神経質でテクニカル。ただし、このグループが HAPPY THE MAN に影響を及ぼした可能性はある) ヴォカリーズ風のフランス語コーラス以外はインストゥルメンタル。 加工されすぎていない製作も好み。

  「Stadacone」(10:16)
  「Le Cosmophile」(5:39)
  「Il Faut Sauver Barbara」(4:15)
  「Ad Hoc」(4:27)
  「La 'Baloune' De Varenkurtel Au Zythogala」(4:54)
  「Isacaaron」(11:21)ここまでの作品よりもエキセントリックな面を強調したプログレッシヴ・ロック作品。カンタベリー風でもある。力作。
  
(RCA KPL1-0177 / MPM 36)


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